【人事労務のリスク管理メモ】10月号アップしました
【今回のストーリー】
●この人、専務なんかじゃありませ~ん
大口の取引先Z社からの紹介で、鳴り物入りで入社した上司のAは、実は社長もしぶしぶ受け入れた、というのが本音のようだった。というのも、このAはZ社で処遇に苦慮した人物で、何とか定年までの数年で良いのでと、うちの会社に泣きついて来たらしい。
それはAがパワハラの常習犯でもあり、繰り返し処分を受けているが、本人に自覚がなく、全く状況が変わらないからだった。そんな問題の人物であれば、体よくお引き取り願えばいいのだが、それができない大きな事情があった。それはAがZ社の創業社長の息子であり、現社長の実の弟だからだった。そうした事情も手伝って、いくら処分をしても、痛くも痒くもなかったのかもしれない。
現社長とAとは兄弟仲が悪く、Z社で不遇であったこともAをパワハラに走らせた原因であったかもしれない。といっても、これはZ社の問題であって、うちの会社には何の関係もない。取引関係の継続と引き換えにAを引き取ったようなものだった。
入社したばかりのAは、パワハラ上司というよりは、スケベなセクハラおやじと言った方が適当な軽いお調子者で、還暦間近の分別のある大人とは到底思えない。同僚らも最初は適当に合わせていたが、最近ではあからさまに避けるようにしている。相手をしてもらえないと寂しいのか、Aは周囲にちょっかいを出すようになり、感情的な言動も増え、パワハラ常習犯の一端を見せ始めていた。
その中で、営業事務の私は格好のターゲットとなってしまい、些細な問題を大げさに取り上げては私を呼びつけ、これ見よがしに職場内で怒鳴り散らす。社長に何とかして欲しいと求めても、後少しだから、と対応しようとしない。
そんなある日、Aが取引先との商談中にお茶を出しに行くと、Aはことのほか機嫌がよく、笑顔で談笑していた。どういう風の吹き回しか、私に同席しろと言う。どうせ私をコケにして笑い話のネタにするのだろうと、仕方なく作り笑顔で席についた。話を聞いていると、どうもこの取引先の担当者は、Z社社長の弟であるAがうちの会社の営業担当の専務にでも収まったと思っているらしく、Aのことを「専務、専務」と呼んでいる。Aもまんざらではないらしい。
私はAからの普段の嫌がらせに対する腹いせのつもりで、「この人、専務なんかじゃないんです。私の上司の、ただの営業課長です。」と言ってやった。
取引先の担当者は、面白い冗談でも言ったと思ったのか、ただ苦笑していたが、Aは顔を真っ赤にして、握った拳を震わせていた。気まずい雰囲気のまま商談は終わり、Aと私の二人になると、「よくも俺の顔に泥を塗ったな。これからどうなるかよく覚えて置け。これからお前の立場は…」とAはいきなり怒り狂ったようにまくし立てた。本当のことを言っただけなのに、少しは大人かと思ったが、いい年をしてAは薄っぺらな奴だ。その後Aからの猛烈なパワハラが始まったことは言うまでもない。
孤立無援の私は、会社には何の恩も義理もないので、法的解決を辞さないつもりでいる。
●私はクレーマー?
Xは勤続数十年のベテラン。あと十年足らずで定年になる。それまで何とか平穏にこのまま仕事を続けられればと思っていたが、そんなささやかな希望にも陰りが見えてきた。それは人事考課の結果に表れてきた。これまで特に問題はなくA評価だったのに、今回はB評価になっていた。それも評価の対象期間中に、特に業務上注意されたことはないし、むしろ目標数値をすべて達成していた。
特に不信なのは、直属の上司の一次評価、部門長の二次評価までは最高のS評価だったのに、最終評価でBとはどういうことか。
人事に評価についての説明を求めたが、これは経営幹部による評価会議で決まったことで、人事は関知していない、とけんもほろろな対応に、不信感が怒りに変わってきた。S評価とB評価では、確かにボーナスに数万円の違いがあるだけだが、それだって大きな違いだし、何より気持ちの面が大きい。
納得のできないXは、直接いきなり役員や社長に聞くのはさすがに憚られたので、コンプライアンス部門に相談した。すると間もなく人事部長から連絡があり、近いうちに面談をするという。「何の関係もない」などと返答しておきながら、今更なんだと思いつつも、今回の評価についての説明を求められる機会ならば断ることもない、と応諾した。
しかし面談での人事部長の話は、評価についての説明と言うより、今回の評価への同意を求めるための「なだめすかし」であり、「脅し」だった。昨年のA評価から、たった一ランク下がったB評価だからといって、ガタガタ言うな、とか、この程度の裁量判断はよくあることで何で文句を言われるのか分からない、とか、ベテランなんだから会社の事情を察してもいいんじゃないか、などおよそ評価についての説明には全くなっていない。
Xは、これは会社が説明できないような恣意的な評価をしたに違いないと考えた。これまでまじめに無遅刻無欠勤で会社に貢献してきたのに、こんな仕打ちは許せない。それに、これは退職勧奨を意図した嫌がらせではないか…?そう思うと居ても立ってもいられなくなってきた。
これまでのXであれば、分かりましたとすんなり同意をしていたかもしれないが、これが退職勧奨ではないかと思ったことから、反論をしなければ、このままずるずるとうまくあしらわれる、そんな気持ちから、Xは再び人事部長にかみついた。
これまでは評価の理由について、きちんと上司から説明があったのに、今回はなぜないのか、AからBに一ランク下がっただけと言うが、S評価だったのを何の理由もなく二ランクも下げたB評価にしたことは、評価権限の濫用ではないか、とまで言い放った。
人事部長は、Xに対して「お前はいったい何を考えているんだ、そんなに金が欲しいのか、地位が欲しいのか?会社の秩序を乱してまでも、自分のわがままを通そうとするつもりか?」と感情的にまくしたてた。 秩序を乱す?わがままを通す?Xはなぜそんなこと言われなければならいのか理解できず、会社に対する不信感というより、情けない気持ちになった。
一方の人事部長は、役員と頭を抱えていた。「Xがそれほど上昇志向が高いとは思わなかった、このままおとなしくしていれば定年までいられたかもしれないが、更に上まで目指そうという腹が見えた以上、このままでは問題だな。とんでもないクレーマーだ。」