【人事労務のリスク管理メモ】9月号アップしました

【今回のストーリー】

●処遇の良すぎるパート

Aは営業を担当するベテランの契約社員で、賃金は営業成績によって大幅に金額が変わってくる歩合給なので、成績次第では正社員よりもはるかに高い賃金も見込める。そうした魅力も手伝って営業の得意なAはあえて契約社員という立場を選んでいる。

Aの所属する営業部門に、パートのBが異動してきたのは新年度になってから間もなくだったが、Aにとって腑に落ちないのは、Bに対する会社の処遇だった。Bはパートなので、午前十時から午後三時までの短時間勤務で、一応営業なのだが、実際には何をやっているのかよく分からない。営業成績はAの三分の一にも達していないにもかかわらず、相当な高給を取っているらしいというもっぱらの噂だ。

Aにとってはそれだけでも腹立たしいが、それに加えて、Bの言動にも問題があり、同じ部署の同僚に対する態度も上から目線で気分が悪い。また喫煙室での休憩時間が長く、いつ仕事をしているのか疑わしいほどだった。

そんなある日、営業に関するデータをパソコンで処理していたBが、誤ってデータをすべて消してしまった。そのためAらは復旧のための余計な作業をしなかればならなかったが、B本人はさっさと定時で帰ってしまう。

業を煮やしたAらは上司Cに対してAの処分を求めたが、数週間経っても何の音沙汰もない。Aらは再び上司Cに状況説明を求めたが、人事が処分に消極的だという。どうも社長の鶴の一声で、お咎めなしとなったらしい。

職場の不満が収まらないことを問題と考えたCは、Bに対して、Aらに迷惑をかけたことを気持ちとして伝えるべきではないかと促すと、Bは問題はパソコンであって私に落ち度はない、と非を認めようとしない。Cは、職場の状況をよく考えるべきではないかと、さらにBに問いかけると、Bは、これは私に対するいじめだと大騒ぎをし、このことはすべて社長に話すから覚えて置け、などと立場もわきまえずに捨て台詞を吐いた。

いつものことでしょうがないという職場の雰囲気だったが、翌日になると、驚いたことに、Cが社長に呼び出され、Bへの接し方に注意を受けたという。

これら一連のことから、Bは社長の愛人ではないかなどのうわさが立ったが、Bは気にも留める様子もない。むしろ上司のCに対して勝ち誇ったようなそぶりまで見せる始末だ。

これでは職場の中だけでなく、会社全体がおかしくなってしまうと危機感を持ったAらは、組合を結成して、団体交渉によってこの問題の解決を図ることにした。

●妊娠を契機に退職勧奨をされたが拒否すると今度はシフトを減らされた

Dは入社2年目のパートで、現在妊娠三か月。Dは仕事の継続を希望していて、出産後は育児休業の取得も考えている。会社に迷惑をかけないためにも早めの報告が大切と考えたDは、上司Fに対して、妊娠の報告と育児休業の取得希望を話した。

すると後日人事から、妊娠中の仕事は出産に影響があるので、一旦退職して、余裕ができたらまた復帰したらどうか、と促されたが、Dは雇用の継続の希望をはっきりと告げ、改めて育児休業の取得を申出た。

すると翌月のシフト編成で、Dはこれまで週四~五日の勤務だったところ、いきなり週二日勤務に変更された。これはDが希望したものではなく、Dの希望シフトが全く無視されたものだった。

Dは上司のFに対して、シフト希望を無視して、しかもなぜ週二日に勤務日数を減らしたのか説明を求めると、Fは人事の意向であることを話したので、Dは人事に説明を求めた。

すると人事は、妊娠中は出産リスクが高いので、Dの仕事の負担を減らせるように配慮したものだという。確かに多少の力仕事はあるが、いまでも職場の同僚の協力を得て、そうした作業への配慮があり、そもそも負担の少ない事務作業が中心のDには、どうしても腑に落ちない。

人事はもっともらしい理由を説明しているが、本心は、育児休業を取らせたくないために、シフトを週二日まで減らしたのではないか、と勘繰らざるを得ない。Dは、これはマタハラではないかと考え、労働局の均等室に解決を求めることにした。

●飲酒して勤務する社員

新入社員のGは、早番の同僚らが休憩室で盛り上がっているので中に入ってみると、チューハイの缶が転がっている。Gも一杯どうだとすすめられたが、このあと遅番の勤務があるからと断ったが、つきあいが悪いとか、少しなら大丈夫だなどと言われ、飲んでしまった。Gも嫌いな方ではないため、つい一本飲んでしまったが、ほろ酔いのせいか罪悪感もなく遅番の勤務に入ったが、上司のHには、Gにアルコールが入っていることにすぐ気が付いたため、注意するとともに、仕事ができる状況ではないとしてGを早退させた。

休憩室での飲酒は公然の事実で、早番の社員は勤務後に一杯やっていて、Gはまた同僚にすすめられたが、一度注意されているのでと断ると、一口なら大丈夫、などと言われ、Gはまた飲んでしまった。

もちろん今回の飲酒も上司のHに見つかってしまい、早退させられたが、どうもGはあまりこの問題を深刻に考えていないらしい。反省の色が見えないGに対して、Hは、少しお灸をすえなければならないと考え、Gに対して、休憩室での飲酒を一切禁止することを命じた。

Gはしぶしぶ受け入れたが、数日後、上司のHが休憩室で飲酒しているのを目撃したため、GはHに対して、G自身には飲酒を禁止しながらHが飲むのはおかしい、と疑問を呈した。するとHは、Gを軽蔑するように、「お前はバカか」とののしった。「勤務前の飲酒を平気でするような奴に、いちいち説明するのもバカバカしい」と相手にすらしない。

納得のできないGは、Hが「バカ」を連発したことはパワハラではないかと考えた。

それに飲酒にしても、仕事に支障があるほど飲んだわけではないし、それよりも二日酔いでまともに勤務できない社員がいても早退させないのに、自分だけ早退させたのは問題ではないか、とも考えた。結局、HはGが嫌いだからこんな対応をしているのではないか、と考えるようになった。

人事に相談しても、全く相手にされないだけでなく、立場をわきまえろと言われる始末なので、社内での解決をあきらめたGは、労基署で、パワハラと早退分の賃金補償を相談することにした。