コンプライアンスは必須。ですが…

コンプライアンス(法令遵守)が必要であることに異論をはさむ余地はありません。しかし一方で、コンプライアンスを徹底してさえいれば…という気持ちが、思わぬ足をすくわれるという状況を作ってしまう、しかもそうしたことが、実はとても多いことに気が付くことが大切かと感じます。

就業規則が問題を解決するわけではない!?

問題の早期の収束、未然防止を旨とする労務管理を進めることが使用者側のスタンスです。一方、相談者は、問題があることを指摘して、その解決を求めますが、使用者側は、相談者の指摘する事実が問題とはならないことを、就業規則などの諸規程や法令判例などを根拠に説明しようとします。コンプライアンスを徹底しているから、法的には何も間違っていない、ということを力説するでしょう。そのような使用者の主張のよりどころとなる就業規則は、会社を守る砦であり、如何にこの就業規則を鉄壁なものにするかが重要で、トラブルのあらゆる局面で、会社の主張の正当性を担保できる規定をどれだけ並べられるか、がトラブル対応における大きなカギである、と考えたとしても無理はありません。

もちろんこれが純粋に法的な争いとなった場合には、間違いなく大きな威力を発揮するでしょう。鉄壁な就業規則は重要です。ですが、これは繰り返しになりますが、法的な議論において、という大前提がついていることに気が付く必要があります。ここで大切なことは、今は果たして法的な議論で、会社の主張の正当性を前面に押し出すタイミングなのか、という判断です。

社内的な解決は、訴訟ではない

労使双方の主張は非常に対照的です。そうした意味では、仮に使用者側の主張がいかに法的に正しいとしても、相談者にとって、指摘した事実が問題ではないなどという判断は、気持ちとしては到底受け入れられないのです。絶対に死傷者側の主張は正しくて、相談者の考えは間違っていることを一方的に押し付けるだけでは、事態の打開が図れるとは到底思えません。使用者側としては一歩も引かない、相談者が納得できないなら訴訟をすればいい、と本当に考えているのであればともかく、労使双方の納得と同意による社内的な解決をめざす段階では、訴訟と同様に考えてはいけないと考えます。

法的な判断と問題の解決とは全く別の話

社内的な解決を目指しながら、その一方で相手の気持ちを全く無視して、理路整然と相手の主張の理不尽さを喝破したとしても、言い負かした満足と引き換えに失ったものがあまりにも大きいことに気が付いたときは、すでに後の祭りです。相談者の置き所の無い気持ちを収束させることには、完全に失敗しているからです。法的な解釈で相談者の主張を論破したとしても、その先にある解決交渉を有利に展開するための序章であるという位置付けがはっきりとしているならば、次の段階として、相談者の妥協と納得をどう引き出すか、と考えた対応が準備されるべきところです。

相手を説き伏せることでは、問題の解決にはならない

実は、このような力任せに相談者の主張を論破してしまうような状況は、無意識にしてしまいがちなものです。特に感情的に許せない従業員に対しては、力でねじ伏せようとしてしまうものですが、窮鼠猫を噛む、の例え通り、行き場のなくなったトラブルの相手方の従業員の感情は、あらぬ方向へと向かいます。この段階で、社内的な解決は絶望的になります。これは問題解決の方向性として、当初から想定されていたものでしょうか。

問題解決のカギは、認識のギャップをどう埋めるか

既に「労使双方の主張は非常に対照的」であると書きましたが、社内的な解決のカギを握るのは、この問題解決に対する認識のギャップをどう埋めるか、にあると思います。では具体的に何をすべきなのか…これはケースバイケースで考えなければならないものですが、最低限抑えておくべきポイントがあります。一言でいえば、今の問題の状況から、一歩下がって冷静に見つめ直す、ということに外なりません。お互いが頭に血が上った状態では、如何に相手を打ち負かすか、という発想しか生まれてこないからです。これではケンカであって、労使双方の納得と同意を旨とする社内的な問題解決ではありません。

まず、何が問題の解決なのか、を改めて見つめ直すことです。使用者側の主張を相談者に押し付けることは、問題の解決ではありません。問題の解決は、相談者にこの状況をどう考えさせ、どのような判断をさせたいのか、その結果どのような行動をとらせたいのか、これが問題解決のゴールです。そのための働きかけをすることが解決行動になります。ここで必要なことは、その相談者が何をどう考えるか、感じるか、思うのか、ということです。一言でいえば「共感」でしょうか。

当事者への「共感」が社内的解決のポイント

もちろん共感さえすれば円満に解決できる、と言えるほど話は単純ではありませんが、逆に「共感」が無ければ、まず解決はおぼつきません。ここでいう「共感」とは、相手の要求をすべての飲むことではなく、相手の気持ちに寄り添う、ということです。

どう考えても理不尽な要求や主張であるとしても、そうした要求をしようとする相手の「気持ち」を理解してあげることで、話を前に進ませることができるのではないでしょうか。

問題解決のための方法はまさにケースバイケースです。具体的な対応についてはこちらからご相談ください。