スポーツクラブにおける業務委託契約の問題点

業務委託契約はどこまで認められるのか

有期契約のスタッフは、その是非はともかく、人員調整のバッファとして広く活用されていますが、無期転換権の発効を前後して、業務委託契約によるスタッフが増える傾向があります。スタジオのエアロビクスなどのインストラクターについては、従来から業務委託契約の形態が主流であったところ、最近では直接雇用とすべき業務についてまで、業務委託契約が活用されている状況は、労務管理上極めてリスクが大きいと考えます。

施設の運営委託とスタッフ個人との業務委託は全く別次元の話

施設運営を委託をする契約形態は、運営ノウハウの豊富な専門事業者に、施設運営そのものをすべて任せるものであり、委託先の専門事業者が雇用するスタッフとは、直接的には、何ら契約関係がありません。こうした場合に施設所有者側の責任者として、「総支配人」などと称して、受託事業者が現場運営サイドの責任者としての「支配人」とは別に設けることがあります。

この場合の「総支配人」は、施設運営の委託元の社員であり、業務運営について、現場のスタッフに対して、直接指揮命令をすることはできません。あくまでの施設管理の責任者であり、運営業務の委託先である専門事業者に対して、契約上の責任関係があるのみです。現場の運営スタッフに対しては、委託先の専門事業者に雇用されたスタッフの中から選任された「支配人」が、指揮命令関係を持つことになります。

総支配人が現場の指揮命令をするのは違法

このような運営委託、専門事業者側からすれば運営受託ですが、施設所有者側の責任者である総支配人が、受託業者の雇用する現場のスタッフに、直接指揮命令をすることは、いわゆる偽装請負、職安法違反であり、派遣法の脱法行為との判断が免れません。

もし施設所有者である委託元の会社に、施設運営のノウハウがあり、総支配人が直接施設運営に指揮命令を権限を行使したいということであれば、直接スタッフを雇用するか、あるいは労働者派遣によって人材を確保することになります。

雇用形態をとらずに業務委託でスタッフを賄うことの是非

施設の運営を委託することは異なり、スタッフ一人一人と、雇用契約ではなく、業務委託という形態で就労させるケースも散見されるところですが、問題となるのは、本当に業務委託としての実態を伴っているのか、という点です。

スタジオのインストラクターは従来から業務委託契約

比較対象として分かり易いのは、スタジオのインストラクターですが、彼ら彼女らは、会社側から指定されたレッスンの大まかな内容に基づいて、レッスンの詳細な構成、進行は一切自身の裁量で行います。ウェアからレッスンで使う音楽もすべて自前です。レッスンの時間の運営をすべて任せている、と言っても良いと思います。

このようなスタジオのインストラクターは、レッスンを受け持つこと以外の、クラブ運営に関する業務には関わることはまずありません。フロントの対応が忙しいときに、顔見知りのメンバーのチェックインを代わりにすることがある程度で、それも極めてまれな場合です。

また、ほとんどのスタジオのインストラクターは、他のクラブでもレッスンを持っています。半年などの一定の期間ごとに契約更改を行い、レッスンの時間帯、内容、本数、そして一本当たりの報酬について交渉の上、諸条件の決定します。インストラクターの都合でスタジオプラグラムが大きく左右されるのです。

他の運営スタッフを業務委託契約にできるか

一方で、例えば、監視スタッフを業務委託として就労させることができるのかについては、監視業務のすべてを特定の事業者に委託する場合ではればともかく、監視スタッフ一人一人の配置や時間を誰が管理するのか、スタッフ同士の連携を誰が指示するのか、という点を考えれば、仮に業務委託契約という形式をとっていたとしても、実態は労働者であると判断されると思われます。

では、ジムやプールのスタッフはどうか。この場合に、例えばパーソナルトレーナーとか、特殊なレッスン内容を伴うもので、その業務内容については、レッスン時間も含めて、受託者の裁量が認められるような実態があれば、業務委託としても妥当性があるとも考えられますが、シフト等によって従事時間が指示され、レッスン内容もマニュアル化された定型的なものであるなど、むしろ接客サービスに近いものであれば、業務委託とは程と遠いもので、実態は労働者であると判断されるでしょう。

プールのスタッフについても同様で、レッスン内容に裁量があり、細かな指示等はしていないとしても、指導にはマニュアルがあり、特に児童のクラスでは、指導の継続性が求められることから、カリキュラムが当然に存在しています。このような組織的なレッスンが求められるような場合には、そもそもスタッフ一人一人のレッスンに関する裁量は極めて限定的でしょう。しかも未経験者をサブに付け、指導方法を身に着けた段階でメインでクラスを持たせるようなスタッフの育成をしていることが通例かと思われますので、業務委託は適当ではないでしょう。

こうした場合でも、特殊な技術を身に着けるクラスの運営をすべて任せるようなケースでは、業務委託という形態も妥当性を持つ余地があると思われます。

労働者を業務委託契約で就労させた場合

実態として労働者であると認めらた場合には、労働基準法をはじめとする労働者保護法令等が適用されることになります。業務委託契約だから、という理由は通りません。あくまでも実態判断です。最低賃金の規定の適用や、業務中のケガなどは労災扱いとなるなどのリスクが考えられます。

コスト削減を意図した業務委託契約は大きなリスクを伴う

最低賃金、年休、割増賃金、労働社会保険料等の労働法令が規定する義務や負担を回避することを意図して業務委託契約を活用することは、仮に一時的なコストの削減が図れたとしても、結局はそれ以上の大きな負担を伴って帰ってくるのではないでしょうか。スタッフからの疑問や不安、不満を惹起することは間違いありませんから、会社側が自発的に問題の解決を図らなければ、トラブルの外部化が避けられません。

雇用契約から業務委託契約への変更

スタッフに対して、会社側から、従来の雇用契約を業務委託契約に変更するよう求めた場合に、業務内容が労働者であると認められないような実態があればともかく、業務内容はこれまでと同様で、賃金計算方法まで一緒であれば、実態としては労働者と判断される可能性が極めて高いと言えるでしょう。

また、このときにスタッフから、業務委託契約への変更を拒否された場合で、それを理由に会社が雇用契約を解除したときには、これは解雇として取り扱われることになります。この判断は、新たに提示した業務委託契約の内容が労働者としての実態を伴わないものであったとしても変わりません。

運営を委託した会社がスタッフを業務委託契約にしている場合も…

施設を所有する会社が、施設運営を専門業者に委託した場合で、その委託した会社(受託会社)が運営スタッフを業務委託契約にしていいる場合があります。これは業務の委託の再委託に当たるという契約上の問題だけでなく、本来であれば雇用契約として就労させるべきスタッフを業務委託契約としていたことを起因とするトラブルが発生した場合、これは受託会社の問題として済ますことができないことが考えられます。委託元の会社には、委託先に対する監督責任が問われることになるからです。委託したから、後はノータッチではなく、問題のある運営をしていないかどうかのチェックは最低限必要と考えます。