退職勧奨トラブルの回避には何が必要か

退職勧奨に法的な制約はありません。もちろんそれが執拗かつ対象者本人の意向に反する言動が繰り返されるようであれば、違法性が疑われることになりますが、会社が従業員に対して、「辞めて欲しい」ということ自体が問題となる余地はありません。ところが、退職勧奨は常に大きなトラブルに発展する可能性があります。

退職勧奨がトラブルになる原因は、2つ

その原因は、退職勧奨の対象となった従業員の意に反する退職勧奨が行われる場合、あるいは、退職勧奨の意図を隠して退職を促すような言動が繰り返される場合、の大きく二つになると思われます。

誠意のある退職勧奨はトラブルにならない

どうしても辞めてもらわなければならない社員に対しては、もちろんこれには様々な理由があろうかと思われますが、誠意をもって、辞めて欲しいことを率直にお伝えになることが、実はハードルが高いように見えて、最もしこりの少ない方法です。もちろん辞めて欲しいという意思をどうお伝えになるか、これはコミュニケーションの問題ですが、どのような言葉で、どのような方法であれば、その対象となった社員に、抵抗感が少なく受け止めてもらえるか、これはケースバイケースですが、熟慮が必要です。こうした点にどれだけ心を砕くか、ということが、何よりも重要ではないでしょうか。

退職勧奨をされた社員の気持ちを想像できるか?

もし、今のあなたが部下の立場で、上司から、経営者から退職勧奨をされたら…という気持ちをしっかりと考えることが、トラブルを回避する第一歩です。本人にとっては、まさに青天のへきれきで、どれほどショッキングなことか、という気持ちを想像できないままで退職勧奨をすれば、間違いなくトラブルにつながります。

退職する意思はない、と言われたら…

こうした誠意を持った退職勧奨を、熟慮に次ぐ熟慮の上で検討した方法や言葉で伝えたとしても、対象となった社員に退職の意思が無い場合には、当然すんなりとは受け入れてもらえないでしょう。たいていの場合は、考えさせてほしい、という回答が返ってくるのではないでしょうか。

あるいは、明確に退職する意思が無い、と回答された場合には、これ以上の退職勧奨は確かに憚られますが、それでも会社側の意向としては、退職してもらわない訳にはいかないような事情があるとすれば、慎重に対応する必要はありますが、礼を失しないことを前提に、退職勧奨を続けることが必ずしも問題であるとまでは言えないのではないでしょうか。会社としてはこうした事情があるので、申し訳ないが辞めてもらうほかない、ということを切々と誠意をもって伝えることが、違法性を持つとまでは言えないように思われます。

ですが、それでも辞めて欲しい、という意向がある、ということは、裏を返せば、ではないぜ解雇しないのか、解雇という選択肢を選ばないのか、という点を考える必要があると思います。様々な事情はあろうかと思われますが、本来であれば解雇すべきところを、会社の意向として、合意退職としたいということであれば、それ相応の条件を提示しなければならないことは自明でしょう。

ですが、ここまでのプロセスは、トラブルではありません。話し合いであり、交渉です。会社が誠意を持った対応を続ける限り、トラブルにはならないのではないでしょうか。

交渉を破談にする一言

交渉も大詰めになり、最終的な金銭解決の段階で、あと一歩のところで交渉が破断することがあります。金銭面での折り合いがどうしてもつかないこともあると思われますが、実は無意識に発した言葉が、退職勧奨の対象となった社員の気持ちを大きく逆なでするようなものであったために、すでに同意しようと固めた気持ちを一転させてしまうことがあります。例えば、

「あなたはこんなに有利な条件で退職できて幸せだ」

「会社はこんなにあなたのことを考えている」

「社長に感謝すべきだ」

「普通ならばこんなにもらえない」

「すぐに応じないと損だ」

…こうした言葉を、無意識のうちに使っていないでしょうか。これらは会社側の弁解のような理屈であって、退職に応じるよう働きかける社員に向けた言葉では到底ありません。こんな言葉を投げかけられて、ハイ分かりました、と誰がサインをするでしょうか。これらの言葉が、その社員にとって、どれほど自分を馬鹿にしているのかと怒り心頭に達するような言葉である、ということが全く理解できていないことの表れです。不用意な一言が、結果として、解決金を数倍にはね上げることもあるのです。

こうした不用意な一言は、その退職の決断を迫られている社員の気持ちを全く理解しないことから発せられるものです。退職勧奨に至ったことに対する遺憾の気持ちどころか、ねぎらいの言葉一つかけられずに、交渉が成立するはずがありません。

策を弄するから、トラブルになる

もちろんぞんざいな退職勧奨を執拗に行えば、それ自体がトラブルになりかねませんが、一方で、退職勧奨の意図を隠したまま、自主退職に追い込むような策を弄することも、労務管理として、下の下策です。

退職勧奨に際して、退職勧奨であることを明言せずに、いきなり、あたかも対象となった社員に大きな問題があるかのような指摘をして、「このまま続けられると思うか?」「転職も一つの選択肢だと思うが…」などと、退職せざるを得ないような方向に誘導することは、しばしばみられるところです。

中には、不当な退職勧奨であるなどとの指摘を受けても「退職勧奨などしていない」「退職勧奨ではない」などと弁解するケースも散見されますが、これは訴訟でのリスクを考えたと思われるものでしょう。しかし実態として退職勧奨をしているのですから、全く弁解になっていないばかりか、一方で見苦しいとしか言いようがありません。まさに、策士策に溺れるの図です。

後付けの能力不足の指摘は必ずぼろが出る

退職勧奨を意図しながら、自主退職という方向に持って行きたい会社側の意向が、対象となった社員の能力不足をこれでもかと指摘するという方法を選択させることがしばしばあります。退職トラブルの際に出てくる事実関係の常連で、常套手段と言っても良いでしょう。こうした後付けの能力不足の指摘は、裏を返せばこれまでのずさんな労務管理を自ら証明しているようなもので、この結果トラブルとなった場合には、悪質な退職勧奨として、会社に対する格好の攻撃材料とされかねません。

本当に能力不足が見られるのであれば、適宜能力不足を指摘し、改善指導を行い、その繰り返しでも改善しないことを確認した上で、配置転換を試みること、それでも問題の解決が図れない場合で、もはや配転の余地もないという段階で、ここで初めて退職勧奨、となるのではないでしょうか。余談ですが、だからといって、外資系企業で蔓延するリストラ手段としてのPIPが、無条件で正当化されるものではないことはもちろんです。

それでも策を弄するなら…

せめて退職勧奨の対象となる社員の気持ちを、少なからず心地よいものにするような策を弄して欲しいものです。それなら進んで退職に応じよう、と明るい気持ちで、思わず決断してもらえるような方法を提示できれば、それに越したことは無いと思います。ポイントは、その社員の気持ちをどれだけ読んだ対応が取れるか、にかかっていると思いますが、退職勧奨に係るトラブルを避ける方法として、確実に一つ言えることがあるとすれば、それは、その社員の気持ちをどれだけ理解しているか、ということではないでしょうか。

退職勧奨をされた社員の気持ちを想像できるか?

これができないために、ややもすると無意識的に会社の理屈でその社員を排除することだけを考えてしまうことから、無用のトラブルを引き起こしていることが、問題の原因の大半ではないでしょうか。