あっせん、調停について、知っておくべきこと

使用者、会社側からあっせん、調停を申請するケースはどちらかというとまれかもしれませんが、たいていの場合は、労働者、従業員からあっせん申請をされた、調停を申請された、というケースで、被申請人側として、いわば受け身的に対応するものになるかと思います。

あっせん、調停について、あらかじめある程度の情報を得ていたとしても、実際にあっせん開始通知、調停開始通知が届けば、少なからず心穏やかではないでしょう。さてこのあっせん、調停にどう対応するべきか、これをまずはお考えいただく必要があります。

あっせんも調停も、任意の解決制度

あっせん開始通知、調停開始通知をご覧になれば一目瞭然ですが、被申請人がこのあっせんや調停に応じるかどうかは、全くの任意であるということです。なお、あっせんと調停の違いですが、これは私見ですが、全く何も変わらない、とお考えいただいて差し支えないかと思っています。

とはいうものの、調停への対応には留意が必要

一応調停は、労働施策総合推進法のパワハラ防止規定や男女雇用機会均等法、育児介護休業法などの法律違反を根拠に、労働局に解決を求めるものであるという、申請時の対応として、あっせんとの明確な棲み分けがありますが、その内容は話し合いによる解決制度であり、もっと言えば民事的な金銭解決のための話し合いという意味では、あっせんと何ら変わらないかと思います。

ですが、調停の場合で留意すべき点は、その調停申請書に記載された法律違反の指摘内容です。申請人がどのような法律違反の指摘をしているのか、それは事実なのかどうかも含めて、対応を考えなければなりません。それは、こうした法律違反については、調停という任意の解決制度とは全く別に、行政指導の可能性があるからです。この先は労働局の行政判断であり、調停とは一切関係がありませんが、その違法状態を指導課が重視した場合には、個別に違法状態の解消についての行政指導がある可能性がある、ということです。この指導があった場合には、違法状態の解消に向けて、真剣にお考えいただければならない事態であると解釈しなければなりません。

そうした意味では、まずは申請書の記載内容から、申請人の要求、主張内容を見極めることが、これはあっせん、調停を問わず、大切になってくることになりますが、特に調停の場合には、違法状態の指摘が必ずあるはずですので、それが事実である場合には、早急な改善を図ることが、任意の話し合いによる合意形成の前に、対応する必要があるとお考えになっておくべきかと思います。

あっせん、調停に応じるべきか

上記とも重複しますが、これは任意の問題解決制度ですので、応じるかどうかは全くの任意ということになります。申請人の要求内容は全くの失当であり、怒りすら覚える、応じるなどありえない、とお考えの場合、即「参加しない」という判断になるかもしれませんが、ここでお考えいただきたいことは、この労働局のあっせん、調停という制度が、労使双方の任意の話し合いによって、合意形成を図る機会である、ということです。

訴訟リスクを回避できるという大きなメリット

その合意の効果は、この問題について、今後一切言及しない、つまり、この問題についてはこれ以上申請人は法的解決を求めない、という合意文書によって収拾が図られることにあります。もちろん、このあっせん、調停によって解決に向けた合意が成立しなかった場合には、次の段階として、裁判所の解決制度である労働審判が想定されるわけですが、申請人が次の段階に進むことが想定できる場合には、その訴訟リスクを未然に回避するという意味では、あくまでも合意形成を図って後顧の憂いを断つという意味で、応じるという選択もあるかと思います。

被申請人はもっとあっせん、調停を有効に活用するべき

あっせん、調停に応じるかどうかでご判断に迷う場合には、応じておかれるべきではないかと思います。それは、申請人の意向や真意を見極めることができる機会でもあるからです。もちろん直接話し合いをするわけではなく、あっせん委員、調停委員を通じてやり取りをするのですが、その中で、申請人が何を考え、何をしたいと思っているのかを探ることができれば、今後の対応についてさらに熟慮することができますし、ここで納得のできる着地点を提示された場合には、合意形成によって、問題の収拾を図ることもできるからです。

申請人は、ここで合意をしたい強い意向を持っている

労働トラブルの解決制度には、労働局等のあっせんや調停と言った任意の解決制度よりも、むしろ労働審判や、あるいは訴訟といったより強い拘束力のある解決制度の方が、労働者にとっては魅力的に映るものですが、にもかかわらず、あえて強制力のない解決制度を選択したのか、と言えば、裁判所の解決制度よりもはるかに敷居が低い手軽な制度であると感じているだけでなく、できれば経済的にも精神的にも負担の大きな裁判所の制度は、できれば使いたくない、と考えているからです。

被申請人が有利な条件で合意形成を図ることができる可能性がある

ということは、できることならこのあっせんや調停で合意形成ができるのであれば、合意をしたい、という強い意向を持っている、と解釈する事ができるのではないでしょうか。それは、会社側から見れば、これもケースバイケースではありますが、会社にとって有利な条件で合意形成を図ることができるチャンスでもある、という事になるかと思います。

合意の意思が全く無い場合でも、参加する意味はあるのか?

あっせんにしても調停にしても、任意の制度ではあるとは言うものの、その後に想定される労働審判や裁判で、審判員や裁判官に対する心証に影響を与える、好印象を与えるために、このあっせんや調停に応じたが、つまり誠意をもって問題解決の話し合いをしたが、合意に至らなかった、という形式を整えることを考える向きがあるようですが、本当にそのような効果があるのでしょうか。

とりあえず応じて無回答という対応は、申請人を感情的にさせるだけで何も得るものはない

もちろん、合意形成のためのやり取りの結果、残念ながら合意に至らなかった、という場合であればともかく、当初から合意の意思は全くないが、その後の労働審判等での影響を考えて、一応、あっせん開始通知、調停開始通知には応じる旨の返答をしておき、あっせんの期日、調停の期日にとりあえずは出席するものの、その場で開口一番、合意する意思はない、話し合いをする意思もないことを告げることに、どの程度の意味があるのか、少なくとも申請人側からすれば、それならなぜはじめから応じないと回答しないのか、馬鹿にしているのか、と感じるはずです。そうした意味では、申請人に対する気持ちを一切考慮していない、申請人の気持ちを逆なでするに十分な行動であることを認識する必要があるかと思います。それに対して申請人は次に何をする可能性があるかにについて、想像力を働かせなければならないのではないでしょうか。

一応合意形成を図ろうとしたことは形式的に示されるが…

実はこうした「とりあえず応じておく」ことで、形式的には「合意に至らなかった」ことが一応示すことができる余地があります。それはあっせん、調停で、合意形成にためのやり取りが何も行われなかったとしても、労働局から郵送される打ち切り通知には、双方の主張の隔たりが大きく同意に至らなかった、と記載されるからです。この書面の内容を根拠に、あっせん、調停には誠意をもって応じたのですが、残念ながら…と労働審判等で主張することができますし、もし申請人が、それは嘘だ、話し合いなど何をしていない、などと反論をされたとしても、あっせん、調停は非公開だから、その内容は口外できない、と逃げることもできます。

コンプライアンス的に問題がなければ…という姿勢の是非

ですが、これは私見ですが、このような策を弄するようなやり方、しかも申請人の心情を逆なでするような方法ですから、申請人を感情的にさせることを意図しているのであればともかく、もっともそれもどうかと思いますが、決して筋のいい対応とはとてもいいがたいのではないでしょうか。人を欺くような策は、申請人から具体的な反論があれば、すぐに化けの皮が剥がれるものであり、むしろ逆効果、第三者に好印象を与えるものでは到底ないからです。まさに、申請人という相手がどう考えるのかを一切考慮せずに、使用者として何を言いたいのかだけを考えたものであり、コンプライアンス的に問題がなければ文句を言われる筋合いではない、という姿勢ですが、もっともこれは価値判断ではあります。個人的にはどうかと思いますが、皆さんはどうお考えになるでしょうか。

合意形成を図るあっせん、調停の場での交渉戦略

あっせんや調停での合意は、たいていの場合金銭解決であり、悩ましいのは、その金額になります。話し合いの間を取り持つあっせん委員や調停委員は、当然合意形成に向けて、申請人、被申請人の双方に対して、一定の妥協を求めます。それはたいていの場合、申請人の要求事項を100%被申請人が応じることができない状況だからです。ここからはまさにあっせん委員、調停委員の腕の見せ所なのですが、いかに申請人、被申請人の譲歩を引き出し、着地点に着地させるか、様々な働きかけがあることになります。被申請人に対して譲歩を引き出す場合、あっせん委員、調停委員は、当然と言えば当然ですが、訴訟リスクについて説明をし、合意形成のメリットを強調します。その上で、合意形成に向けたさらなる譲歩、つまり解決金の上乗せの可能性を打診することになります。

あっせん委員、調停委員が説明する訴訟リスクに動揺しないこと

ここで大切なことは、合意に向けた無理な回答、無理な意思表示をしないことです。あっせん委員や調停委員は、たいてい弁護士か社労士ですが、法的な視点から訴訟リスクを説明されれば、おそらくここで合意をしなければ、などと思うのではないでしょうか。あらかじめ様々な予備知識を仕入れ、準備をしておいたつもりでも、いざあっせん、調停の場で、あっせん委員、調停委員の口から、訴訟リスクを力説されれば、無理をしてでも応じなければならないか、と思うかもしれません。

無理な妥協や回答はしない

そこで説明をされる訴訟リスクが、実際にどの程度のものなのか、その場で判断することは難しいと思いますし、無理にその点をお考えになる必要もないかと思います。もし明らかに被申請人=会社側に問題となる非がある場合には、その点を考慮したうえで、金額の妥当性を考えなければならないことは当然ですが、あっせん委員、調停委員から提示された着地点になるであろう金銭解決の金額が、当初の想定を大きく上回るようなものである場合には、とても即座に判断ができるものではありません。

訴訟リスクの説明は、合意形成を図るための妥協の要請

ここでお考えになるべきことは、あっせん委員、調停委員は、なぜ法的判断をしない制度であるにもかかわらず、訴訟リスクについて、ことさらに不安をあおるようなことを言うのか、と言えば、これは合意形成を図るための、妥協を引き出すための働きかけである、という側面を思い出すことができれば、腑に落ちるのではないでしょうか。どう考えてもそんな判決になることはあり得ないだろう、という説明であったとしても、可能性としてゼロではない、そういう裁判例もありますから、などとことさらに不安をあおられたりします。冷静に考えれば、可能性はゼロではない、ということは、逆に言えば限りなくゼロに近いかもしれないけれど…という言下のニュアンスが含まれていることに気が付けば、つまり解決金を上乗せしろというメッセージか、と解釈することができます。

ですが、ここであまりあっせん委員や調停委員に楯突くようなことを言えば、やはり人間ですから、臍を曲げられてしまうかもしれません。ここはひとつ委員のお力お借りして、申請人に対してもうひと汗かいていただけないでしょうか、という姿勢で、こちらの意向を伝えてもらえるようお願いする、という対応も大切かと思います。

合意形成にあたっての判断のよりどころとなるものは、被申請人として、この合意形成を図りたい意向の程度です。何としてでも合意形成を図りたいのか、合意形成を図るとしても一定の金額以内であれば応じることもやぶさかではないが、それ以上は応じない、あるいは、そもそも合意形成にこだわらない、応じられる条件によっては合意してもいい、という被申請人としての、着地点に対する考え方によって、対応は大きく異なることになります。

合意形成にこだわらない場合

もっとも被申請人にとって有利な条件で合意できる可能性がある反面、そうした被申請人の姿勢に対して申請人が感情的になった場合には、次の段階に進まれてしまうリスクが高まる可能性があります。

こうした立場は、おそらくは訴訟も辞さずという姿勢を被申請人自身が持っている場合であり、合意形成に至らない可能性も高くなることにはなります。そもそも最初から合意形成に頓着しないのですから、当然と言えば当然かと思います。

一定の条件が満たされれば合意形成を図りたいという意向がある場合

一定の条件をあらかじめしっかりと持っていることが大切になってきます。その条件以上は譲れない、具体的には金銭解決の金額ということになるかと思いますが、具体的な上限金額をお決めになっておくことです。

ですが、一旦は決めた上限金額でも、あっせん委員、調停委員からの働きかけで、さらに上乗せをすれば確実に合意ができる、とダメ押しをされることが典型的ですので、そうした点も考慮に入れつつ想定をされておかれることが重要でしょう。

何としてでも合意形成を図っておきたい場合

だからといってフリーハンドではあまりに無防備であり、またあっせんや調停の場合の申請人の請求金額はたいていの場合過大ですから、具体的な金額は曖昧のまま、あっせん委員、調停委員からの提示内容に対して、状況判断ではありますが、それほど的外れな提示をしないであろうことを前提にすれば、お任せにしてしまう、あるいは最初に合意形成を図りたい意向をお話になったうえで、できるだけ妥当な金額で合意ができればという希望をお伝えになっておいてもいいのではないかと思います。

あっせんも調停も、合意形成にのみ意味がある制度。ですが…

あっせん、調停は、申請人、被申請人による任意の話し合いによる解決制度であって、事実認定や法的な判断が示されることは無く、問題の内容はともかく、結果としてどういう合意をするか、どのような合意によって収拾を図るか、が話し合われる場であって、あっせんにしても、調停にしても、その合意形成という事実にのみ意味がある制度である、と言えます。

だからと言って、問題の事実関係のついての法的解釈が一切無視される形での合意形成はあり得ません。これが仮に訴訟になった場合、どのような判断がなされる可能性があるのか、というあっせん委員、調停委員の心証が、合意に至るプロセスに大きな影響を与えることは間違いなく、合意金額の提示にあたっては、どの程度の金額が妥当か、おおよその見当をつけた上でのお話が進むことになるからです。

詳細な反論文書は必須

ですので、申請人の一方的な主張内容にあっせん委員、調停委員の心証が引っ張られないようするためには、被申請人として、その主張に対して、法的根拠をもって主張の誤りを事実関係と照らし合わせながら、詳細に、ち密に反論をすることが極めて重要になってきます。

反論文書に説得力を持たせる内容は、事実関係をどれだけ客観的に示すことができるかがポイントです。申請人の主張が、どちらかというと抽象的主観的である場合にはなおさら、被申請人としては、その指摘が誤りであることを、具体的な事実関係をこれでもかと記述することで、より説得力のある反論文書にすることができます。

問題解決のための方法はまさにケースバイケースです。具体的な対応についてはこちらからご相談ください(「労務管理・トラブル対応のご相談受付窓口」のページへのリンク)。