「シフトをもとに戻してほしい」

パートやアルバイトは通常シフトで就労する形態が一般的かと思われますが、そのシフトが固定的になった状態が比較的長期間継続した後で、業務の繁閑に応じてシフトを調整した結果、特定のスタッフのシフトが減ってしまうようなことは当然にあり得ることなのですが、固定的な勤務シフトが本来の勤務形態であるという認識を前提に、「シフトをもとに戻してほしい」という申し入れがしばしば見られます。

そもそも契約内容は…?

こうした場合に、確かに一定期間はほぼ固定的なシフトで勤務していたとすれば、それが当然に自分の勤務時間であって、その時間が減らされる場合には、労働条件の不利益変更ではないか、という判断が働くことは様に想像ができます。このときに、その固定的な勤務シフトで就労していた期間の、シフトの決定はどのようなプロセスを踏んでいたのか、という点も重要になってきます。

シフト希望などはほとんど出すことはなく、毎月のシフトはフルタイム勤務状態であったような場合には、実態としてフルタイムの契約となっている、そのようにスタッフ本人が認識したとしても無理はない、という状況となっている可能性があり、そのフルタイム勤務状態を変更する必要性については、やはり本人が納得できるような説明をしておくことは必要ではないでしょうか。

とはいうものの、そもそもの契約内容が、シフトによる柔軟な勤務態様にであるとすれば、それを変更するような手続きがあるような場合を除き、やはりシフト勤務なのです。そう考えますと、希望通りにシフトを増やす義務は会社にはないことになります。そもそも、業務の繁閑に応じて勤務してもらうことを想定した就労形態として契約しているからです。

問題は、シフト編成にかかったバイアス

シフトの減少が問題となる場合、これが他のスタッフも同じようにシフトが減っている、という場合には、その減り方にもよりますが、おそらくはトラブルに至ることは少ないのではないでしょうか。問題は、「何で自分だけ減らされるの?」ということなのです。シフトに絡むトラブルの大半は、ここに問題があります。

「なぜ私だけ減らされるの?」

シフト編成は、たいていの場合、職場の上長などが担当するかと思われますが、どんなに気も付けていたとしても、スタッフ間に過少の不公平感が残ることは、これはどうにもならないところでしょう。しかしそうした不公平感は、微々たるものです。来月は増やすから、とか、どこかで埋め合わせるするから、といった対応で十分でしょう。「なぜ私だけ減らされてるの?」という疑問に、答えられるものだからです。問題は、なぜ自分だけがシフトを減らされているのか、説明ができないケースです。

そのシフト編成の担当者が、ある特定のスタッフに対する嫌がらせ、さらに踏み込んで排除することを意図して、恣意的にシフトを減らすような場合が、その典型でしょう。

シフトが増えたり減ったりすることは、シフト勤務で就労する以上、当然に前提とされているものですが、その増えたり減ったりするシフトを、恣意的に調整しているとすれば、話は全く別のもの、ということになってきます。つまり、だって、シフト勤務なんだから、という理由が使えないのです。それは「なぜ私だけ?」という疑問に応えられないからです。パワハラの問題として考える必要もあるでしょう。

「私だけが減らされる」特別の理由を説明できるか?

が、この問題の解決のカギを握っています。この場合でも注意しなければならないことは、問題となっているスタッフの「なぜ私だけ」という疑問に対する、本人が納得のできる説明をすることが求められます。法的に会社の主張が正しいのだから、一刀両断にすれいばいいじゃないか、と考える向きもありそうですが、この段階は、訴訟ではないのです。話し合いによって社内的に解決を図っているのですから、問題のスタッフの考えや思いを、頭ごなしに押さえつけるような説得は禁物でしょう。コンプライアンスの視点だけではなく、話し合いで平穏に解決を図るという視点を加味した対応が求められるからです。

【参考ストーリー】人事労務のリスク管理メモ2019年5月号

シフト減少分の休業手当を請求された場合

休業手当とは、労基法26条に規定する、会社都合の休業に対して会社が支払い義務を負う賃金補填のことです。これまで入っていたシフトと比較して今月のシフトはずいぶん減らされているから、その減った分は会社都合の休業だから・・・と、こういう訳ですが、一般論として、シフトが前月よりも減った場合、この減ったシフトは会社都合の休業でありません。

シフトで勤務する場合、シフト作成の都度労働日が決定されます。労働日以外の日は、当たり前ですが、休日、ということになります。つまり、シフト勤務の場合のシフト日数の増減は、労働日の増減であり、休日の増減です。休業手当が必要になるのは、この労働日に、出勤をする準備をして仕事に就く意思を持っていたのに、会社の都合でその仕事ができなくなった場合が該当します。

そうしますと、シフトで労働日が決まった後で、その労働日に「来なくていい」と言って帰してしまった場合が、会社都合の休業、ということになるでしょう。働いてないんだから、ノーワークノーペイだから、給料は支払う必要がない、とは言えません。

ここで問題になるのは、そのお休みについて、本人の同意がある、というケースです。つまりシフト上の労働日を「休業」にした、のではなく、本人の同意のもとで、シフト上の労働日を「休日」に変更した、というものです。このお休みが、果たして休業なのか、休日なのか、これまで業務の遂行状況や業務の特殊性などから、納得性の高い判断が必要になってくると思いますが、さすがに出社してきたスタッフを、今日は人が多いから帰っていいよ、と返してしまった場合、「休業」にせざるを得ないのではないでしょうか。

そんなことを言ったら、会社都合の休業で、働かないで給料の6割がもらえるなどと、みんな喜んで帰ってしまう、と思われますか?まず、会社の意向に反して帰った場合は、これは欠勤であり、業務命令違反にも抵触するでしょう。それともう一つ、シフトで勤務するスタッフの場合、休業手当はいくらになると思いますか?勤務日数は週4日以下程度が多いかと思いますが、この場合の平均賃金の6割は、通常の賃金の4割にも届きません。これは平均賃金の計算方法に特徴があるからなのです。

退職するスタッフをシフトから外す店長

これも嫌がらせとしか言いようがありませんが、本当に退職するスタッフが仕事に係る時間を減らす業務上の必要があるのであれば、その旨をきちんと説明するべきでしょう。ですが、退職間近のスタッフから、

「辞めるスタッフに入れるシフトは無い」

などと店長から直接言われた、という相談が後を絶ちません。そもそもこのような気分の悪い嫌がらせをすることで、会社が何か得るものがあるのでしょうか。現場のアルバイトのシフトなど、本部人事がとやかく云々するような範疇の問題ではないとしても、モラルの低い店長への教育という課題を避けることはできないでしょう。

一方で、退職の意思表示を告げると、公然とシフトが減らされるような対応が黙認される状況は、パートアルバイトスタッフの仕事への取り組み方にも、大きな影響を及ぼすのではないでしょうか。もちろん良い影響ではありません。そしてシフトを減らされることを避けるために、退職の意思表示は突然に告げられ、シフトに穴をあけられるような状況が蔓延するのではないでしょうか。

以上のように、シフトに関する様々なトラブルについて指摘をしてきましたが、この問題の根本的な原因は、現場のパートアルバイトを管理する店長などの管理職の、能力不足にあると言って良いと思います。

問題解決のための方法はまさにケースバイケースです。具体的な対応についてはこちらからご相談ください。