コンプライアンスの隙間を埋める社外相談窓口

労務リスクマネジメントとしても解釈されている「コンプライアンス」ですが、そもそもコンプライアンスは、文字通り「法令遵守」であって、少なくとも法令に反することの無いようにしましょう、ということかと思います。具体的には、労基法などをはじめとしたさまざまな労働関係諸法令に従った対応をし、それらに沿った就業規則などの諸規程を整備し、様々な措置義務、配慮義務、ひいては努力義務までも履行しましょう、という姿勢です。

つまり、労務リスクマネジメントの要諦は、いかにコンプライアンスの壁を厚く、高くできるか、にあると考えられているのではないでしょうか。これは一般的な考え方であるとも思えます。

コンプライアンスの徹底でトラブルは避けられるのか?

こたえはイエスでもあり、ノーでもあります。それは、御社が何をトラブルと考えているのか、に拠るからです。従業員の不安や不満を、少しでも軽減したいとお考えであれば、コンプライアンスの徹底だけでは不十分です。しかし、大抵の会社では、労務リスク管理と言えば、コンプライアンスという認識です。相談窓口にも「コンプライアンス窓口」としている会社が多いこともその表れです。しかし、

コンプライアンス徹底の効果は、責任追及の回避

にほかなりません。つまり大抵の会社が考える労務リスク管理は、責任追及の回避が目的となっているのです。もちろん損害賠償請求等のリスクを回避することは、会社としては、いわば最後の砦であって、そこから先には絶対に踏み込ませないという固い壁を作ることは当然に必要なことで、会社運営に安心と安定をもたらすことができることは確かでしょう。

しかしそうした姿勢は、往々にして、トラブル対応にも表れることになり、責任追及の回避の姿勢ばかりが前面に押し出されれば、相談者である従業員の怒りの炎に油を注ぐ結果になるのです。実はこうした対応はよくあることで、特にトラブル対応の場面では、双方の主張内容の中に、対照的に現れます。

問題の事実を直視して、会社として問題を認めて欲しい

のが、大抵の相談者の気持ちです。最初から金銭の補償を考えるような相談者はまれではないでしょうか。少なくとも高額の賠償を求めたいような従業員は、そもそも社内の相談窓口などを活用せずに、外部の解決制度の活用をするでしょう。そうした従業員に対しては、コンプライアンスを楯に毅然と反論をすることが必要です。

しかし、問題の事実を問題として認めて欲しい、仕事がしやすい環境にしてほしい、と求めている相談者に対して、会社が往々にしてしてしまうことは、やはり同じように

コンプライアンスを楯に、毅然と反論してしまう

のです。就業規則の規定を持ち出し、労働諸法令の条文を参照し、裁判例まで引用して、いかに会社の対応が正しいかを、懇切丁寧に説明してしまうという愚を犯してしまう傾向があります。つまり、会社には責任が無いことを、もっと言えば、損害賠償請求なんか通らないよ、ということを一所懸命に主張するのです。

会社の主張や説明内容は確かに正しいし、その通りかもしれませんが、一方で、相談者の気持ちを受け入れ、納得させることには、完全に失敗しています。話し合いというキャッチボールができていないのです。ここで会社は、そもそも相談者の投げたボールにはキャッチすらせず、それを全く返球していないだけでなく、別ボールをこれでもかと相談者に投げつけているだけであることに気が付く必要があります。

問題解決のカギは、コンプライアンスの外にある

コンプライアンスという鉄壁の外では、激しい炎が燃え盛っていても、壁で守られているから大丈夫、というのでは、あまりに無防備です。燃え盛る炎は、いつどこで、どこから会社本体を揺るがすことになるのか、予測ができません。

ここで疑問なことは、果たして相談窓口は、どこで何をしているのか、ということです。相談窓口の設置を、コンプライアンスの一環として考えていると、コンプライアンスの壁を脅かさないような相談は、軽視されてしまうのではないでしょうか。

不満、不平の炎を鎮火するのが相談窓口

という役割があって、初めて労務リスク管理がより完成度の高いものになるのではないでしょうか。不平不満は、会社に対する責任追及でもなければ、損害賠償請求でもありません。まず相談内容を受け入れること、その際に、相談者の口調が激しいとか、渋面を作って上司の非難をしているとしても、その表面上の様子だけでコンプライアンスの鉄壁を押し出してしまったのでは、相談者の反発を誘うだけで、話は先に進みません。相談者の真意はどこにあるのか、ゆっくり話を聞くという姿勢が、まずその入り口になります。

私もこれまで多く方のご相談に応じてきましたが、ご相談に来られたときの表情は、みなさん緊張の面持ちですが、お帰りになるときには、とてもいい表情に変わっています。相談される方のお気持ちは、そういいうものだと思います。もちろん、すべての皆さんにとって、納得のできる、満足いただけるような対応がでたかどうかは常に気なるところですが、少なくとも怒りの炎を鎮めることは出来たのではないか、と自負しています。

不平、不満の炎を鎮火することができれば、ここで初めて、冷静な話し合いができるのではないかと思います。「なんだ、こんなことだったのか」で終わる問題も、実はとても多いのではないでしょうか。御社の相談窓口も、是非、従業員の皆さんの「気持ちをつなぐ」役割を演じて頂きたいと思います。