いわゆる問題社員に頭を悩ますケースは多々あろうかと思われますが、ここで考えたいのは、その問題社員に対する対応方法についてです。問題社員を放置することは労務管理上決して望ましいものではありませんが、ではどう対応すればいいのか。関連する資料や書籍、ネット上で検索するだけで、これでもかというほど「問題社員」への対応方法がアドバイスされています。
しかしそのどれも、いかに体よく会社からお引き取り願うか、問題社員を如何に法的リスクを回避しながら排除できるか、という指南に終始しています。
もちろん問題社員は、居ないに越したことはありません。しかし問題だからと言って、短絡的に、当たり前のように、排除することを前提に、どうすればうまく辞めてもらえるか、だけを考えることは、あまりにステレオタイプな対応ではないか、という問題提起をしたいと思います。
問題社員は、なぜ問題社員になったのか?
能力不足の問題は別として、言動が職場の雰囲気を悪くする、同僚に対して感情的な嫌がらせを繰り返すなどの問題行動が、入社後まもなく現れたのか、あるいは、数年あるいは十数年勤続後に、いきなり、あるいは徐々に表面化したのか、その態様は様々かと思いますが、それらの原因をまず考えることが、この問題の本質を考える上で重要かと思います。
問題の言動を繰り返すのは、おそらくは何らかのストレスの発散か、エネルギーの解放のいずれかではないでしょうか。プライベートで大きなストレスを抱えているため、あるいは、何らかの職場での人間関係の変化がきっかけで、いきなり職場でそのストレスを発散し始めたのかもしれません。彼ら彼女らにとっては、発散をすることで自分自身を保っている、ともいえるのではないでしょうか。ストレス耐性が、かなり低いのではないかとも考えられます。
また、パワハラ常習犯管理職の典型は、パワハラが理解できないことが原因であるケースが大半です。ですがこのパワハラ常習犯管理職も、新入社員の時からパワハラ常習犯だったわけではないでしょう。普段の言動に問題があることが多少はあったとしても、許容範囲だったのかもしれません。その大きなきっかけは、管理職になったことにあるのではないでしょうか。
注意指導や懲戒処分の繰り返しが事態を悪化させる
勤続十数年といったベテランの社員が、いきなり、あるいは徐々に問題社員化する過程では、本人にとっては無理難題な注意指導が繰り返され、消化不良のままストレスをためてしまっていることもあるのではないでしょうか。その上、協調性が足りないとか、能力不足を指摘されたり、あるいは、乱暴な言動について、懲戒処分などを複数回されているような場合には、問題社員レッテルを張られてしまい、さらに事態が悪化するケースもあります。
職場の中での問題の言動が、逆にエスカレートしたり、あるいは、本人のメンタル面での影響が深刻になることもあります。懲戒処分のショックで、うつや適応障害といったメンタル疾患、中には統合失調症を発症することもあるのです。
問題社員になることも、一つの能力
バカなことを言うな、と言われそうですが、誰でも問題社員になろうと思ってなれるものではありません。憎まれ口をたたき続けるエネルギーと集中力は、並み大抵のものではありません。このエネルギーと集中力を、すべて仕事に振り向けることができれば、すでに死語ですが、まさにモーレツ社員になるかもしれないのです。
問題社員と言っても、その人材を会社は採用した訳です。何らかの人材として、会社にとって活用したいと考えたから、採用したはずです。その能力は生かされているでしょうか。もし生かされていないとすれば、とてももったいないことです。一方で、自分の人材能力を活かされないため、有り余ったエネルギーと集中力が、余計な方向に向かってしまっているのかもしれません。
問題社員の人材活用は、まさにダイバーシティー
ダイバーシティ―、といういと、障害者雇用やジェンダーの問題と捉える向きがありますが、問題社員の人材能力の発掘は、まさにダイバーシティーではないでしょうか。人材不足の今日、問題社員のレッテルを張られたら、体よくお引き取り願うことだけを考えていては、もしかすると大変な人材能力を見逃している、無駄にしてしまっているかもしれません。これなどは、ダイバーシティーの考え方の対極にあるものです。
感情的なわだかまりという大きなハードルどう超えるか、という職場内での難しい問題もありますが、ちょっと視点をずらすことで、お互いの理解と考え方の共有をはかることができたりするものです。時間はかかるかもしれませんが、ここは根気よく続けることが大切です。
とはいうものの、職場の中で、感情的な折り合いがつかなくなっているところまで状況が深刻化しているような場合には、そもそも雇用の継続するという選択肢そのものを持ち合わせることができないかもしれません。ですが、職場から排除することを前提に対応を考えることは、個人的には適当とは思えません。もし人間関係での問題があるのであれば、その人間関係の隔離を一旦は図ってみてから、結論を出して欲しいと思っています。
問題社員、クレーマー、モンスター社員は、体よくお引き取り願うことだけを考えていたのでは、全く見えない視点です。この発想の転換が、問題解決の新たな第一歩につながれば、と願っています。
問題解決のための方法はまさにケースバイケースです。具体的な対応についてはこちらからご相談ください。
【参照ストーリー】人事労務のリスク管理メモ2017年5月号、2020年1月号