【人事労務のリスク管理メモ】4月号アップしました
【今回のストーリー】
●「絶対に退職させない…」威嚇する上司
先月採用したばかりのBは現在試用期間中で、3か月の試用期間が満了すれば、会社としては本採用を前提に考えていた。ところが採用後一か月足らずで、Bから仕事が合わないという理由で、退職したい旨の申出があった。
上司のSは、人手が足りない職場の現状を強調して、何とか残ってほしいとBに翻意を促したが、すでに意思を固めているBは、執拗なSからの引き留め説得に半ば辟易していた。
このまま話を聞いていしてもきりがないと思ったBは、「もう決めたことなので、気持ちは変わりません」とぴしゃりと言い切った。
これで解放されるとBは思ったが、その思惑は見事に外れた。上司のSは、これまでの態度を一変させ、Bに対する非難、罵声を浴びせ始めた。Sとしては、あえてへりくだってBを持ち上げてやっていたのに、説得の最中のBのいかにも不満そうで、かつ、不遜に見えた態度も、感情に火をつけるに十分だった。
「だいたい一か月くらいで何が分かるんだ」「前職もそうやって辞めてきたんだろう」「これじゃどの仕事も長く続くわけがない」などの非難に加えて、「お前を採用するために会社がどれだけ金をかけてるのか分かってるのか」「損害賠償もできるんだぞ」「こんな辞め方では次の就職は不利になる」などと、今度は脅しにかかってきた。
Bは恐ろしくなり、その場を辞したが、今後どうすればいいのか分からなくなってしまった。
Sとしては、ここでBに辞められた場合、人事から管理職としての評価がどうなるかを恐れていた。Sが管理する職場の人手不足は深刻で、人事に対して早急な人員補給を強く求めていただけに、やっと確保できたBという経験者を離職させるわけにはいかない事情があった。それがあの脅しのようなの言動につながってしまった。
●そして誰もシフト希望を出さなくなった
雇用保険等の加入義務がないなど、雇用に伴う会社の負担が比較的軽い学生アルバイトを多用しているT社では、そうした半面で、シフト編成では常に課題を抱えていた。
学生の本分は学業であって、アルバイトではないという前提では、学校の行事とか、学業上の急な用事などに対しては、柔軟に対応せざるを得ない。
最近では、そうした理由をうまく利用してシフトに穴をあける学生アルバイトが散見されるようになってきており、会社としてもその穴埋めに社員を動員せざるを得ないこともあることから、学生アルバイトの管理を厳格にすべきではないかという声が上がってきた。
そんな中、案の定、学生アルバイトのHが、学校の急な用事のため、シフトを変更してほしい、と申し出てきた。
アルバイトの管理を任されている社員のDは、Hの仕事に対する責任感のなさを指摘して、「会社のことも少しは考えろ」などと数十分に渡って説教をした。
Hには、本当に学校の急な用事があった。また、シフトを減らしてほしいことをこれまで何度も伝えてきたのに、会社はシフトを減らすこともなく、一方では、急なシフト要請にも応じてきているのに、なぜ自分の要望は受け入れないのか、不満が高まっていた。
会社の意を受けた形で、アルバイト管理担当者のDは、Hだけでなく、他の学生アルバイト数名にも同様の説教を繰り返していたため、会社に対する不満は学生アルバイトに大きく広がっていた。
問題は次月のシフト希望の提出締め切り日起こった。一月に数日しかシフトに入れない旨を記載したシフト希望用紙が、学生アルバイトから一斉に提出されてしまった。
学業の都合があるにもかかわらず、シフトを変えてもらえないなら、最初からシフトに入らなければいい。どうせ人が足りなくなればいつものように直前にシフトに入るように言われるのだから、後からシフトに穴をあけて怒られることがなくなるだけましだ、と考えたからだった。
●社長とそりの合わない役員の部下となったら…
新会社立ち上げ以来、経営状態が思わしくない子会社の営業体制を一新するために、Wは親会社から鳴り物入りで子会社に出向してきた。
Wは親会社の主力営業部隊で大きな成果を上げていて、子会社でもその手腕を振るってほしいという期待のこめての出向だった。
勤務初日に初顔合わせを兼ねて、子会社の社長ら経営幹部と早速ミーティングに入ったが、社長からは開口一番、郷に入ったら郷に従えで、すべてこの会社のやり方に従ってもらう、と一方的に通告された。
その威圧的な剣幕には、その場は一気に白けてしまい、Wもさすがに口を閉ざした。このままでは何のために自分が出向してきたのか分からない、という思いもあったが、まずは現状把握に徹することが重要と割り切って、その場はいたって冷静に対応するよう努めていた。
ところがいざ職場に向かおうとすると、社長から、「君の机は別の場所にある」といって、倉庫の脇にある一室をあてがわれた。そこには机とパソコンが一台置かれていたが、人気のないカビ臭い部屋だった。ここでこれから新たな一歩を踏み出すと思うと、Wはたまらなく憂鬱になってきた。
連絡事項はすべてメールを通して行うと言われたが、重要と思われる業務に関連するメールはほとんどなく、また営業に関する共有ファイルはパスワードロックがかけられており、あろうことかWにはそのパスワードが知らされることが無かった。つまり子会社に出向してきたものの、営業業務どころか会社組織から全くの蚊帳の外に置かれた状況を強いられることになってしまった。
この子会社の社長は、親会社の社長との勢力争いに敗れ、親会社を追われる形で子会社の社長に収まっているという経緯があり、親会社のスパイのようなWには最初から仕事をさせるつもりなど毛頭ない。
進退窮まったWは、親会社の社長に現在の窮状を訴えたが、もうしばらく耐えてくれ、また親会社に戻すから、という一言だった。
ここは暫く我慢するほかないと覚悟を決めたが、半年たち、一年たっても親会社の社長からは何音沙汰もない。現状にたまりかね、Wはもう一度現在の窮状を何とかするよう親会社の社長に訴えると、こんどは、「労基署に訴えろ」と言われてしまった。
Wは、自分を体よく追い出すために出向させたのではないか、などと親会社の社長の真意すら疑いかけていて、何をどうしていいのか、途方に暮れている。