【人事労務のリスク管理メモ】11月号アップしました

【今回のストーリー】

●上司と部下のぎくしゃくした関係

日常生活雑貨品専門商社のG社は、取扱商品の希少性という要素も手伝って、あまり景気に左右されない比較的安定した経営をしていた。これはメリットでもある一方で、組織がぬるま湯的な雰囲気を作り出すデメリットもあった。
商品開発部門は比較的活気があるが、末端の営業所は、総じて日々のルーチンワークを淡々とこなすことが仕事になっていて、職場の士気はあがらない。それでも取引先からの注文がコンスタントにあるためか、特に問題にもならず、あえて何かを変えようとか、改善しようという気概にも乏しい。
九州地区を担当するK営業所は、所長Aと事務担当の職員Yの二人体制で仕事を回している。が、本社の目の届かない遠方で、しかもたった二人だけの職場ということで、仕事の自由度が高かった。悪く言えば、やりたい放題の職場だった。
所長は出張と称しては、月の半分以上は事務所を不在にし、残された従業員は、ほとんど一人で仕事をしている状態で、誰にも管理されていない。そのため、時間管理はいうまでもなく、明確な業務についての指示などは皆無だった。
それに加えて、この職場にはたった二人の職場であるにもかかわらず、この上司と部下の関係が険悪な状態という問題があった。
やりたい放題の所長Aは、たまに事務所に顔を出しては、Yの業務について些細な文句を言う一方で、いい加減な業務指示を出したり、そのときの気分でYを叱責したり、自分がすべき業務を忘れていたことを本社に指摘されると、Yに責任転嫁することは日常茶飯事で、挙句の果てには自分のすべき業務までYに押し付けてきた。
これに対し、さすがに業を煮やしたYは、上司のAに対して、自分のすべきことは自分でしてほしいこと、業務の指示を明確に出して欲しいことなど、情けないほど当たり前の要求をした。しかしAは、このYからの要求を、A自身に対する反抗と受け止め、これ以来、ろくに口を利かなくなってしまった。
それどころか、Aは本社人事に対して、Yが反抗的なので解雇したいとまで話をしていた。

●問題に関わろうとしない本社

K営業所長のAから、Yを解雇したいなどと言う話を聞いても、本社人事は、どうせ些細ないがみ合いだろうという程度の解釈で、Aに対して、Yをきちんと管理していないのではないか、しっかりしろ、と軽く叱責をするにとどまった。
これを契機に、AはYに対して、これまで以上に厳しく当たるようになった。Aは本社人事からYの管理を求められてことに対して、Yを自分の意のままコントロールし、文句を言わせないことが自分のすべきことであると解釈してしまったために、自分の意に沿わない取扱い方法や取引先とのやり取りについてまで、細かい指摘をするようになった。
その一方で、A自身の仕事に対する姿勢は変わることはなかった。
具体的な業務指示をしないのに、時々顔を出しては些細なことに腹を立て、感情のままに叱責をする所長のAに対して、Yは、本社人事にK営業所の業務の実態を詳細に報告し、早急な改善を求めた。
この報告を受けた本社人事は、「またか!?」という感じだったが、一応A所長に事実関係の確認を求めた。しかしAは事実関係をすべて否定し、報告はYの作り話で、A自身を根拠もなく貶めるものだとして激高した。
ただYの報告内容が全くのウソとも思えなかった本社人事は、Aに対して日々の業務について報告するよう命じた。Aは不承不承応じたが、Yによって本社人事に醜態をさらされたことへの怒りが収まらなかった。
翌日から、AによるYへの無視、仕事外しが始まった。
一方でAは、地元で公私にわたり懇意にしている得意先を通じて、人事からの不当な圧力を排除するよう、社長に直訴した。この取引先は、G社の社長と縁戚関係にあり、強い影響力を持っていた。人事から不当な指示を受けた業務報告するよう命じられたことは、Yの報告を真に受けたもので、受け入れがたい屈辱であり、むしろ罰せられるのはYだとまで言い放った。
結局、社長の鶴の一声で、Aに対する業務報告命令は撤回され、今度はYが問題視されるような雰囲気が作られていった。その後もYから、Aによる理不尽な業務指示や、仕事外しについて解決を求められたが、本社人事としては、何もしようとはしなかった。

●どうすればYを辞めさせられるか?

どうしてもYを辞めさせたいAは、無視や仕事外しにとどまらず、重要な連絡事項を伝えずYを窮地に追い込んだり、意図的に法に触れるような業務命令を強要した入りしていたが、それでもYに辞める気配はない。Yも半ば意地になっているようだった。
そこでAは、社長を通じてG社の人事コンサルタントのSと接触を図り、Yに退職をさせる方法を相談したところ、Sは、それは簡単なことだとうそぶいた。外資系企業でよく使われている業務改善計画を使えば、多少時間はかかっても確実に退職に追い込めるという。
Aは、この業務改善計画を作成し、本社人事に提出した。内容はいささかずさんではあるが、法的には何とかなるだろうというコンサルタントのSのお墨付きを得て、Yに対して、この計画の実施を命じた。
Yの顔も見たくないAは、まず本社での研修の実施を命じ、その講師には件のコンサルタントSが当たった。研修を受けるのはY一人で、Sと一対一のYへのプレッシャーをかけることだけが目的の内容だった。SによるYへの言動は卑劣を極め、さすがのYも泣き出してしまった。
社内的な解決は無理と判断していたYは労働局の助言・指導という制度を使い、研修内容の問題解決を求めた。対面を重んじるG社にとって、大きなショックだった。研修は直ちに中止となり、YはAとかかわりのない東北のF営業所へ異動となった。