【人事労務のリスク管理メモ】8月号アップしました
【今回のストーリー】
●自分にだけ冷たい上司
入社間もないKにとって、職場内の人間関係や覚えなければならない仕事などだけでも少なからず負担だが、それにもまして直属の上司であるLからの冷たい対応には、やり場のない不安とストレスを感じている。些細なことと言ってしまえばそれまでだが、明らかに他のスタッフへの対応の仕方と違うと感じていたKは、新入社員であることも手伝って、職場の中でも孤立していった。
業務上の質問などには一応は答えてくれるが、Lから声をかけてくれるようなことは全くない。休憩中に他のスタッフと雑談をするようなときでも、Kが話に入ろうとすると、それをあえて無視したり、黙り込んだりするため、場が白けてしまう。そうしたことが繰り返されるため、Kは徐々に職場の他のスタッフともあまり口を利かなくなってしまった。
そんなおり、上司のLから、日報の提出をするよう命じられた。日報は一応スタッフ全員に配布されているが、提出義務は課されていないし、そもそもきちんと書いている人がいるようにも思えない。なぜ自分だけが…などと不信に思っていると、Lから「なぜ君だけに提出させるか、その理由がわかるかい?」と聞いてきた。 その様子に冷ややかな威圧感を感じたKは、自分が何か大きなミスをしたのではないかと少なからず動揺した。しかし身に覚えのないKは、何と答えたらいいのか分からず、黙り込んでいると、Lは「だから君はダメなんだ」と言うなり、その場を去ってしまった。
Kは職場に行くのが怖くなり、Lを顔を見るだけで鼓動が激しくなった。何とか仕事だけはこなしているが、それが精一杯でその場を逃れることばかり考えていた。しかしLは、日報に加えて、意味の分からないレポートや、理由の分からない始末書などの提出を命じてくる。今のKにはそのまま応じるしかなかった。 そうしたこともあり、Kはどうしても出社できなくなってしまった。医師に受診したところ「適応障害」と診断された。これを契機にKは休職をすることにした。職場から離れることで落ち着きを取り戻したKは、今回の問題はそもそも上司のLの対応が原因ではないかと考えるようになった。Kは今、この問題を労災として取り扱うよう会社に求めようと考えている。
●叱責でパニックになった新人社員
Mは今年入社した新人社員で、普段はおとなしく口数も少ない。上司のNは、そんなMに対して、もっと職場の同僚ともコミュニケーションをとってほしいと思いつつ、普段の忙しさも手伝って、あまりフォーローができていないことが気になっていた。
Mは普段は製造ラインで作業をしているが、今日は外部から見学に来ている小学生の子供たちを案内するよう指示があり、普段の業務を離れて、工場内の見学の案内をしていた。工場の様子を紹介するMの声が小さく、一方で子どもたちも飽き気味で、がやがやと騒がしくなってきたため、引率の先生が子どもたちに静かに話を聞くよう注意するとともに、Mに対しても、もう少し大きな声でお願いします、とささやいた。
Mは、自分の声がよく聞こえないのは子どもたちがうるさいからで、私に注文をするのはどういうことか、と不機嫌になったが、黙ってうなずいていた。
最後に社長が挨拶をしたが、社長の声はもともと大きくまた話も面白かったので、子どもたちからも笑い声が上がるなど、楽しい雰囲気で見学を終了することができた。
Mは、ホッと一息ついていると、社長からいきなり肩を叩かれ、「お前何やってるんだ、引率の先生方に挨拶もしないで…それに、なんだ、あのふてくされた態度は。以後はきちんと対応してくれないと困るぞ。」と注意された。
Mは、自分は何も悪いことはしていないし、ふてくされたというのは、引率の先生から声が小さいと指摘されたときのかと思ったので、「あれは子どもたちがうるさかったので…」と言いかけたところで、社長の表情が一気にこわばり、「お前は自分の立場が分かっていないのか、いい加減にしろ」と強い口調で言われた。
その剣幕に圧倒されたMは、体がこわばり、震えが止まらなくなった。その後どうしたのか、M自身覚えていないが、気が付くと休憩室の椅子に座っていた。幾分冷静さを取り戻したが、鼓動は自分でもわかるほど大きい。
Mは今日の社長の行動はパワハラだと考え、上司のNに状況を説明すると、Nは「気にすることはないよ。これから気を付ければいい。」と言うだけで、まるでMに問題があるような言い方だったため、これ以上相談するのをあきらめた。 相手が社長なのだから、どうせ私の話なんか聞いてもらえないだろうし、結局私が悪いことになる、とMは思ったので、社内では一切話をするのを止めてしまった。
仕事は続けたいが、またいつ社長と顔を合わせるかもわからない不安でいっぱいだった。Mは社長の言動はパワハラであると考えていて、もしまた社長を顔を合わせるようなことがあれば、メンタル面で致命的なダメージを受けると思っているので、これからどうすればいいのか、真剣に悩んでいる。
●余計な一言で周りのひんしゅくを買う部下
Oは入社して半年ほどになる社員で、天真爛漫な明るい性格も手伝って、職場の人間関係もそれなりに作れてはいるようだが、些細なことで周りから反感を買うことが多く、Oの上司であるPはその都度噛んで含めるように諭したりするが、理解しているのか、聞こえているのかすら分からない態度に、P自身も腹が立つことがしばしばある。
つい最近でも、職場の同僚の慶事の話で盛り上がっていたときに、「何でその程度のことで喜んだりするんですかね」などと他愛のない感じて話に入り込んできたので、その場が一気に白けてしまった。
また、業務上の不慣れな作業について、同僚に聞いたときにも、「ありがとうございます」とだけ言っておけばいいものを、それに続けて「でもそんなアドバイスって、小学生でもできそうですね」などと平気で憎まれ口をたたくので始末が悪い。
今の職場では、Oの性格を理解してか、同僚らはOの「イヤミ」にもあきらめ気味に苦笑するだけで、特に問題とはなっていないが、このままでいいとは思えない。天真爛漫と言えば聞こえはいいが、悪く言えばKY、状況に応じた言動の使い分けができないのだから、いずれ大きな問題にぶつかる可能性がある。Pは今後どう対応すればいいのか、苦慮している。