試用期間は人材を見極めるラストチャンス

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そもそも試用期間とは

試用期間という言葉には、そもそも法的に明確な定義が与えられているわけではありませんが、一般論として、採用後の一定の期間を、その採用した人材の能力を見極める期間として、使用者が設定をするもの、と解釈されます。ということは、試用期間を設けるかどうかは使用者の判断であり、試用期間の規定のない就業規則もあるでしょう。

試用期間は設けるべきか?

とはいうものの、採用面接などの選考のみで人材能力を把握することには限界があります。実際に就労を開始した段階で、「こんなはずではなかった」「これは当初想定したこととは異なる」ということが程度の差こそあっても、必ずあるからです。そうして意味でも、採用選考のみで、業務内容や所属部署を確定させるのではなく、もっと柔軟な対応が可能な、適材適所を見極める期間が設けられている方が、労使双方にとって望ましいと考えられます。

法律上の適用関係は、試用期間の有無とは関係がない

念のため留意点を一つだけ。試用期間を設けたとしても、労働契約が成立していることに変わりはありません。労働社会保険の適用関係、年次有給休暇などは、試用期間の有無とは関係なく適用関係が発生するものです。

また、試用期間中の賃金については、本採用後の賃金よりも若干低く設定されることがありますが、賃金額についてに法律上の制約は、最低賃金法があるのみです。最低賃金をクリアしているのであれば、極論すれば、賃金はいくらでも問題は無いことにはなります。もちろん契約上の問題は生じますが、ここでは割愛します。

試用期間14日間の意味

労基法21条では、解雇予告の適用除外が規定されていて、その中に、試用期間14日以内の者が規定されています。これは、試用期間が14日に制限されていることでも、採用後14日以内であれば、無条件に解雇ができるというものでもありません。試用期間中の労働者が、採用後14日以内に解雇される場合には、30日前の解雇予告は不要である、という規定です。

14日以内の解雇はレアケース

例えば、試用期間を3カ月と規定している使用者に雇用された労働者が、14日以内に解雇される場合には、解雇予告も、解雇予告手当も必要がない、ということになります。ですが、採用後14日以内に解雇されるという事態は、重大な経歴詐称が早期に発見されたなど、かなり例外的な場合を除いて、レアなケースかと思われます。

試用期間14日以内は無条件に解雇自由な期間ではない

ですので、採用してみたものの、同も職場の雰囲気と合わないとか、面接時の対応と比べて暗いイメージが気になる、などとして、解雇予告の適用除外にしか意味が無い14日間を、解雇自由な期間と取り違え、早く解雇にした方が良いなどと拙速な対応をすると、解雇トラブルで手痛いしっぺ返しを食らう可能性があります。解雇には、客観的合理的な理由と社会通念上の相当性という要件を満たす必要があるからです。

試用期間の規定と本採用拒否の規定はセットで

試用期間は人材能力を見極める期間ですが、この試用期間で不幸にしてある試用期間中の従業員を正社員として雇用し続けることは難しい、と判断せざる得ないという結論に達した場合、文字通り契約の解除、つまり解雇という問題を考えなければなりません。

本採用拒否は解雇

実務上は、配転の可能性やパートなどへの契約変更も含めたその従業員との合意点を探ることになるかと思いますが、一方的な契約の解除となる場合、解雇規定の適用を考えなければなりません。

試用期間中の解雇は本採用後の解雇とは内容が異なる

ところが、試用期間中は採用当初の労働者の人材能力を見る期間であり、これから適材適所を考えなければならないという段階ですから、本採用後の他の労働者の解雇の判断とは、その解雇事由の内容も異なります。そうした意味では、解雇規定とは別に、本採用拒否の規定を別建てで設けておくことで、その違いもはっきりとするのではないでしょうか。

試用期間は人材を見極めるための特別な期間

上記で本採用拒否についてのコメントを書いていしまいましたので、試用期間とは新規採用者をふるいにかける期間という誤解を招き兼ねないとも限りませんので、ここで改めて試用期間の本来の意味を確認しておきたいと思います。

本採用後のトラブルを未然に防ぐための期間

試用期間は人材を見極める期間であることを強調するのは、本採用後のトラブルを未然に防ぐという重要な意味があるからです。

採用判断の時点で新規採用者の人材能力をある程度見極めていたとしても、実際に就労させてみて、その見極めていた人材能力の内容について、程度の差こそあっても、修正をしなければならなくなるのではないでしょうか。人材能力を見極めることで、その新規採用者の人材能力を、業務遂行により効率的効果的に活用することができます。

実際に就労させて初めてわかる人材能力

それは新規採用者本人にとっても望ましいことではないでしょうか。本人にとってよりふさわしい業務に従事させることができるからです。それによって当初の希望通りの業務に従事させることができない事態が生じたとしても、人材能力を見極める作業をち密に来なっていたのであれば、説得力のある説明ができると思いますし、新規採用者本人も納得ができるのではないでしょうか。

後から本採用拒否はできない

もし人材能力をしっかりと見極めずに、試用期間が経過したことから機械的形式的に本採用をしてしまった後で、人材能力に問題があることが分かったとしても、その段階で、やっぱり本採用は見送ります、などといいうことはできませんし、試用期間中にその人材能力を見極める作業に努めていなかったとすれば、その点を後から問題とすることが難しくなってくることも考えられます。

適材適所ではない配置のしわ寄せは職場の同僚が負う

また、本採用後に何らかの人材能力判断に関する問題が確認された後でも、業務遂行に特段問題がある訳でないからなどと放置黙認をした場合、おそらくその業務遂行上の問題のしわ寄せは職場の同僚などの従業員が負うことになります。そして間もなく、「何で会社はこんなできない社員を採用したのか」という会社に対する不満の声が聞こえてきます。

新規採用者排除の職場世論が生まれればトラブルに発展する

そのような状況では、その新規採用者本人もいたたまれないでしょう。そうした状況で、職場の責任者でもあり、その新規採用者本人の上司でもある管理職が、多数を占める既存の従業員の気持ちを汲んだ対応をするようなことがあれば、その新規採用者本人はまさに四面楚歌の気持ちになるでしょう。業務に集中ができずにミスが増えれば、非難の声はさらに大きくなります。そのため、メンタル面での負担から欠勤をしたり、メンタル疾患に罹患することも考えられます。あるいは、上司によるパワハラなどと指摘するかもしれません。

こうした展開は想定される一つの事例ではありますが、トラブルは、こうした展開をたどるものです。

試用期間中に何をすればいいのか

人材能力を見極めると言っても、具体的に試用期間中に何をすればいいのか、これはケースバイケースでお考え頂くものになるかと思います。そもそもなぜ採用を決定したのか、その前に、人材募集の目的は何だったのか、それが明確であれば、どのような人材能力を見極めればいいのかが見えてきます。

なぜ新規採用活動をしたのか

人手が足りなかったから、とりあえず…ということもあるかもしれませんが、人手が足りないということは、その足りない部分を補うことが採用の目的であって、その足りない部分を補う必要がある業務は何かを明らかにすれば、必要な人材能力もはっきりします。

担わせたい業務に必要なスキルを身に着けさせる

既にその人手が足りない業務を補うために、その部署で何らかの業務に従事させているのであれば、どのような業務があるのかを明確にして、一つづつ本人にクリアさせる段階を踏む必要があるでしょう。すでに順調にそうした段階を踏んで、業務の流れにスムーズに乗っているのであれば、現段階では本採用の見込みが立つのではないかと思います。

教育指導は不可欠

問題は、スムーズにその業務の流れに乗れていない場合です。できる業務とできない業務を明確にして、できない業務をできるようにしてあげるための教育指導が必要になります。

教育指導の記録を残しておく

この教育指導については、どのような業務についての指導をしたか、それに対してどの程度の業務ができるのか、その達成度とか、難しい業務であれば、業務遂行能力の向上の様子などの記録を取っておくことが極めて重要です。次の教育指導に不可欠の重要な資料になるからです。

本採用判断に職場の同僚の視点を

紆余曲折あっても、何とか業務をつつがなく遂行することができるようになったとして、本採用の判断をする場合に、その判断にいくばくかの悩ましい判断要素があるときには、本採用後におそらく何らかの形で業務遂行上の問題が生じることが懸念されるでしょう。その時に対応をしなければならないのは、その職場で一緒に業務をする同僚たちです。可能な範囲でという条件付きですが、できる限りそうした状況を職場内であらかじめ共有をしておくことで、本採用後に起こり得るトラブルを未然に防ぐことができるのではないでしょうか。

試用期間を延長して、さらに能力を見極める!?

試用期間の延長は、法的には、試用期間という不安定な雇用状態を継続させるものとして、特段の理由がない限り適当ではないと考えられています。そのため、試用期間の延長については、就業規則に根拠規定があることが必要になります。

試用期間延長の法的要件のハードルは、実は高い

もっとも試用期間の延長規定が無かったとしても、本人がどうすれば問題ないとする向きもあるようですが、本人が拒否した場合はどうするのか、仮に同意をしたとしても、延長後に結局本採用を拒否をした、という場合には、これは解雇ですから、解雇トラブルとして、様々な事実が問題として取り上げられる可能性があります。事後的に同意せざるを得なかったとか、就業規則に根拠規定がないことが使用者にとって不利になる要素となることは間違いないでしょう。

そうした意味では、一応試用期間の延長規定は設けておくことが賢明といえるのではないかと思います。

試用期間の延長は、人材能力を見極められない合理的な理由が必要

試用期間の延長が法的に問題となる場合、試用期間の延長が試用期間中に人材能力を見極められなかったからであることが合理的な理由をもって説明ができる必要があります。なんとなく本採用に不安があったから、という理由では、試用期間の延長が法的に妥当性ありと判断されるとは思えないからです。

試用期間延長後の本採用拒否は、即トラブル

試用期間の延長が法的に問題となる可能性があるのは、試用期間延長後に本採用拒否をした場合でしょう。試用期間の延長に合理的な理由がないとして、試用期間の延長が法的に認められなかった場合、試用期間延長後の本採用拒否は、本採用後の解雇として判断されることになり、解雇有効と判断されるハードルが相対的に高くなることになります。

試用期間延長にリスクが少ないケース

このように試用期間の延長には法的リスクがかなり高いとかんがえられることから、できるだけ試用期間の延長をするべきではないと考えられます。そのため、例えば試用期間がもし1か月とか、3か月であった場合には、6カ月にするなどの就業規則の変更を検討することも必要かもしれませんが、これは労働条件の不利益変更に当たりますから、慎重な対応が必要になります。

本採用拒否が妥当とするケースで、もう一度チャンスを与えるとき

一方で、それでも試用期間を延長することがあるとすれば、本採用拒否と判断された場合で、その本人に対してあえてラストチャンスを与えるとき、ではないかと思います。本人に対しては、その旨をしっかりと説明をして理解をさせること、その旨の合意書面などは、就業規則に試用期間の延長規定の有無を問わず、必ず交わしておくことが賢明ではないかと思います。