配転を打診した従業員が、配転に難色を示した場合の考え方

配転打診の意味

ある従業員の配転を考えたとき、たいていの場合、いきなり配転命令を発するのではなく、まず打診をするのではないかと思います。打診の段階は、あくまでも使用者としての配転の意向をその従業員に伝え、心の準備をしておいてもらう、といった意味が大きいかと思います。

ですがこの打診は、その従業員から配転に応じてもらうようお願いをする、といったものではないでしょう。事実上の決定事項として、もっと言えば、使用者としての人事権の行使として配転を命じる予定を伝えるもの、といったほうが妥当ではないかと思います。

その上で、配転命令を辞令として、事後的な確認事項として発する、という手続きをとるものと思います。

配転打診の意味を理解しない…!?

ところが、この人事権行使の予告である配転の打診を、配転をするかどうかを自分に問いかけるもの、同意を求めるものとして受け止める従業員もいます。

このあたりの対応は、配転「命令」といういかめしいものを前面に押し出さず、やんわりと、それとなく伝えることで、その意味するところを理解しろよ、という暗黙のメッセージであるところにすべての原因がある訳です。

「打診」を逆手に取る確信犯もいる!?

あるいは、打診、というあいまいな働きかけを意図的に逆手にとって、「打診なら応じる義務はありませんよね」などと言ってのける強者も中には居るかもしれません。

もっとも使用者としての意向が、本人の同意が得られれば配転するけれど、同意が得られなければ、配転はあきらめる、ということであれば、文字通り打診だった、ということになるかもしれませんが、それでいいのか、という問題もあるかと思います。

配転打診に対する拒否には、打診の意味を説明する必要がある

配転の打診が、配転命令の予告であるならば、打診に応じられない、という従業員からの回答は受け入れられないものです。ですから、使用者としては、上記のような打診という言葉の真意について、説明をしなければなりません。これはその従業員が、打診という言葉に込めた使用者の意向の理解の有無を問わず、するべきものになります。

つまり、配転の打診は、配転命令の予告であって、従業員は原則として応じる義務があることを伝えることになります。

配転命令には就業規則上の法的根拠が必要

ここで気を付けなければならないことは、配転命令には就業規則に根拠規定が必要である、ということです。もっとも、たいていの就業規則には、使用者に配転命令権限があることを規定しているかと思いますが、念のため、その内容がどのようなものかも含めて、確認をしておくことが肝要かと思います。就業規則に配転命令の根拠規定がもしなかったとすれば、配転の打診は、文字通り打診であって、命令ができない以上、本人同意が無い限り、配転させることはできないことになります。

配転命令にも応じない、という返答への対応

配転の打診は事実上の配転命令という決定事項の通知であることを伝えて、その従業員が渋々でも応じれば良いのですが、配転命令であることを告げても応じられないという返答だった場合には、教科書的には、そうした返答内容に関わらず、配転命令を辞令として書面で交付します。

配転辞令発効日に配転先に出社しない場合の意味と対応

問題は配転命令の発令日に、果たして配転先に出勤するかという問題になります。配転先に出勤すれば、一応配転命令に応じた、ということになりますが、配転前の元の職場に出勤してきたとすれば、これは配転命令に応じないという明確な意思表示として受け止めなければなりません。

このときに、元の職場での業務を平然と始めた従業員に対して、放置黙認をした場合には、配転命令に応じない従業員の行動を、文字通り黙認したことになってしまいますので、新たな配転先に勤務するよう促し、元の職場に立ち入らせないようにしなければなりません。

トラブルは事前に察知できる

もっとも、配転命令の発令日までに、元の職場では引継ぎが行われることになりますし、元の職場には、その従業員の居場所は無くなっているはずです。にもかかわらず、元の職場に出勤したとすれば、おそらくはそれ以前の時点で、例えば、引継ぎを拒否するとか、自分のデスクの私物などを放置したままで片付けようとしない、などの何らかのトラブルが生じていたと考えられます。

配転命令拒否は懲戒事由の業務命令違反

いずれにしても配転命令に応じないこうしたあからさまな行動は、業務命令違反ですから、職場秩序を乱す行為として懲戒処分は免れないものです。おそらくこの段階にまで至るとすれば、労働者側も法的な紛争を想定していることはまず間違いないのではないかと思います。折り合いがつかなければ、行きつくところは、これは労働者次第ですが、訴訟にまで発展する可能性もあります。

打診の段階で配転に応じる説得プロセスがトラブルを回避する

こうした事態を回避するためには、配転の打診の段階で、これは配転命令の予告であることを明示したことに対しても、それでも応じられない、という返答が労働者からあった場合には、使用者としては、法的紛争を避けるためにも、配転に応じるよう説得をするプロセスを踏むべきと考えられます。

これには紛争を避けるという目的に加えて、次のような効果を期待するものになります。一つは、説明説得のプロセスを丁寧にたどることで、従業員の気持ちを尊重する使用者であることを示すことです。配転命令を拒否するならば、それは業務命令違反として懲戒解雇である、不満があるならば裁判でも何でもすればいい、という強権的な対応はしない、ということです。もう一つは、こうした説明を尽くすプロセスは、もし仮に残念ながら結果として法的な紛争となった場合、使用者側に有利に働く考慮要素になる、ということです。

配転命令に頑なに応じようとしない労働者の真意

ここまで配転の必要性やその意義についての説明を尽くしてきたにもかかわらず、それでも応じない労働者の真意は、おそらく次の二つのいずれかではないでしょうか。

2つの真意

一つは、よほどその配転がその労働者にとって有形無形の苦痛を受けるものであるなど、どうしても配転後の仕事、職場に行きたくない、そのくらいなら離職した方がまし、という気持ちがあることが推測できます。

それともう一つは、法的紛争に意図的に誘導しようとする労働者の確信犯的な行動である可能性もあります。最も当初からそのような意図を持っていたとは考えにくく、自分自身を取り巻く労働環境から、そのような意図を持つに至った、と考える方が妥当かと思いますが、おそらくはもともとそうした考え方をする特性を持っていたとはいえるのではないでしょうか。

たいていのケースは前者ではないかと思われますが、その前者のような労働者が、外部の支援機関に相談をしたときに、後者のような対応をするよう指南を受ける可能性も十分に考えられます。

法的紛争を想定した対応が必要

後者のケースであった場合、意図的に紛争を引き起こそうとしているということを認識して、この労働者の行動を予測しながら、その意図を打ち砕いていく必要があります。具体的には、この労働者にとって、法的紛争に至った場合の展開が不利になるような対応、つまり、使用者側にとって配転命令には合理的な理由があると説得力をもって主張ができる事実関係を粛々と積み上げる、という対応をするということになります。

社内的な解決のためには、理屈で抑え込んではいけない

こうした対応をとる場合ですが、その意図の是非はともかく意図的に労働者側を感情的にさせるのではない限り、社内的な解決を目指す場合には、その労働者を理屈で押さえつけるようとすることは、強い反発を招くことになるため、避けるべきであって、職場環境の平穏な維持という目的を意識し続けることが、結果として使用者にとって望ましい結果が得られるのではないかと思います。

労働者を落としどころに誘導するための働きかけを考える戦略的発想

このときに、表向きの姿勢は職場環境の維持であり、業務上の必要を説いていたとしても、本音の部分で敵対する労働者憎しの感情がある場合には、あまりに慇懃無礼な対応が見え隠れすることが否めません。労働者はそうした本心を敏感に感じ取るものだからです。設定した着地点に労働者を誘導することを考えた言動として、どのようなものが最も効果的か、という発想がとても重要になってきます。まさに冷静沈着な、戦略的な発想が求められるところかと思います。