休業手当支払義務の判断と人事判断の妥当性

雇用調整助成金を活用して、休業手当を使用者が支払うことが強く推奨される中で、そもそも休業手当を支払う義務があるのか、あるいは休業手当は支払うべきなのか、その場合、いくら支払えばいいのか、といった雇用調整助成金を受給する以前の段階で、様々なお悩みをお聞きすることも多くなっています。

会社によっては、休業手当が満額支払われる会社もあれば、全く支払われない会社もあって、休業やテレワークによって自宅での業務時間が増える中、「お隣のお宅の会社では休業手当が満額出るっていうのに、ウチはどうなってるんだ?」などと言う疑心暗鬼まで、従業員の中には、渦巻いているようです。

説明不足が不満不安の原因

休業手当を出すべきかどうかも含めて、その判断に迷われている段階で、軽々にリップサービスをしてしまうことは避けなければなりませんが、かといって休業手当をどうするのかという方針も全く示さないことも、あまり適当とも思えません。休業手当を出すつもりもないのに、あえて出しません、などと説明をすることで、逆にトラブルのきっかけを作ってしまうのではないか、とお考えになっているのかも知れません。あるいは、今回休業手当を出すことによって、今後も安易に休業手当を求めるような状況が生まれないか、などと悩みは尽きません。ですが、これは労使双方に当てはまることですが、悩んでいても問題は解決しない、ということです。

「法的義務はない」は説明ではなく開き直り

まずは今回の対応について、会社としての考え方をきちんと説明すべきではないかと思います。もし休業手当を出さないという決定をするのであれば、その会社としての見解をきちんと説明することです。ですが、その説明は、休業手当を出さないことは違法ではない、などという説明を聞く側の気持ちを全く考えない、むしろ逆なでするような説明をしたのでは、煙の絶たないところにまで火の手が上がるかもしません。これは会社側の弁解であって、従業員に対する説明にはまったくなっていません。

従業員に対する説明には、休業手当が出せないことについて、従業員の納得ができるような内容である必要があります。会社としては、当然出せるものなら出したいが、それができない事情がある、だから何んとか理解をして欲しい、というメッセージを発することになります。もちろんこれに対してすんなりそうですか、という訳にはいかないかもしれませんが、少なくとも不承不承ではあったとしても、仕方がない、とあきらめてもらえるのではないでしょうか。

法的な判断は無視できない、が…

従業員に対して、法的な義務はない、という説明をするかしないかは別としても、会社としての休業手当の支払い判断については、やはり法的にどう判断されるのか、という点は無視できません。ですが、この判断は、最終的には訴訟に拠って結論が得られるものでしょう。現段階では、おおよその見通しを立てた上での判断をするほかないということにはなろうかと思います。

一方で、法的に求められている休業手当は、現下の状況を考慮すれば、これは労基法上の休業手当とお考えになって差し支えないかと思います。ところで、労基法上の休業手当は、平均賃金の6割以上と規定されていますが、この労基法が規定する平均賃金は、歴日数1日当たりの賃金ですから、平均賃金の6割の休業手当は、週休2日制の職場であれば、所定労働日数1日当たりの賃金の4割程度の金額になることが確認できるかと思います。

法的リスクのみを考えた場合には、この労基法所定の休業手当の最低額を支払っておく、ということも一つの選択肢かと思いますが、それが金額として妥当かどうか、つまり人事上の判断として適当な金額かどうか、労務管理の視点から妥当かどうか、については、全く別問題ということになります。

恣意的な個別対応はしないこと

中には、休業手当を支払うよう強く求めてくるような従業員もいるでしょう。会社としては、対応の煩わしさから、他言無用を条件に個別対応をしてしまう、ということともあるのではないでしょうか。ですが、この他言無用の条件ほどあてにならないものはありません。必ずどこからか漏れるものです。会社は、声が大きい人に甘い、とか、裏でコソコソよろしくやっている、などと痛くもない腹を探られ、不信感を職場の中で大きくしてしまいかねないものです。

やっぱり黙っている方が良いのか?

この状況が乗り越えられれば、休業手当云々などと言うことはみんなも忘れるだろうし、なし崩し的に既成事実化してしまうことが最もストレスなく、状況をやり過ごす方法かとも思いたくなります。これは人事対応の常套手段ですが、何事もなく過ぎ去ったように見えたとしても、それは「表面上」見えている、にすぎません。もちろん、職場の人間関係に絡む問題には、この問題にだけにかかわらず、あらゆる場面でこうした「表面上」見えているに過ぎない、という状況があるわけですが、そうした状況がある、ということを認識しているのか、認識していないのか、では、もし今後、仮に表面下の問題が、表面に浮き上がってきた時の対応に、大きな違いが生まれます。

「諦めてもらう」という状況がいたたまれないなら…

従業員に対して、休業手当を出せないことを説明し、いわば諦めてもらう、という対応にいたたまれないお気持ちであれば、そのお気持ちを率直にお示しになることもとても重要だと思いますし、やはり休業手当をお出しになる、という判断をされる場合には、ここまでの説明が従業員の納得をより高めるものになるのではないかと思います。

一方で、休業手当をお出しになるのであれば、雇用調整助成金の申請は欠かせないものかと思います。