【人事労務のリスク管理メモ】バンクナンバーをアップしました
●隠そうとする従業員、知ろうとしない会社
A株式会社の従業員となったBさんには、統合失調症の既往歴があるが、現在は日常生活に全く問題がなく、医師の指導の下、服薬も一旦停止しており、仕事についても、発症前とほとんど変わらない程度の業務ができるところまで回復してきた。
面接に際して、Bさんは会社から病気などについて何ら聞かれることが無かったため、不採用になり兼ねない要素となるような過去の既往症などについては、あえて話さなかった。それに現在は、従来と変わらないくらいに回復しているのだから、その必要は無いとさえ考えていた。 一方、面接を担当した人事のCさんは、昨今のメンタルヘルス対策の重要性の高まりは十分に感じていたものの、いざ面接段階で、どこまで踏み込んで聞いていいものか、特にプライバシー情報である病気の既往歴などを尋ねることに迷いがあり、他方でBさんがとても明るい雰囲気でやる気と責任感のある人であると感じたことも手伝って、結局その点に関しては何も聞かず面接は終了した。
そして会社は検討の末、ぜひBさんを採用しようということとなった。
●重要な初期対応
BさんはA社で順調に仕事をこなし、社内での信頼も高くなっていた。そんな折、A社はBさんに対して、ある重要なプロジェクトのリーダーになってもらいたい旨をBさんに打診し、やる気と責任感の強いBさんも快諾したため、会社はBさんをそのプロジェクトリーダーに抜擢した。
リーダーとなったBさんの労働時間は、これまでとは大幅に増加し、一月の時間外労働が百時間を超えることも珍しくなくなってきた。
やる気と責任感の強いBさんは、リーダーとなった当初こそ、溌剌と積極的に業務に取り組んでいたが、長時間労働に加えてプロジェクトの難しさから大きなストレス感じるようになり、体調にも異変が生じてきた。
職場の同僚たちも、薄々とBさんの変調を感じ取っていた。まずこれまでの明るさが無くなり、口数も減ってきた。また業務中の動作が極端に遅くなることがあったり、話しかけても即座に返答しないようなこともみられるようななってきたからである。
Bさんの直属の上司であるDさんも、最近のBさんの様子を気にかけ、人事のCさんにそれとなく相談をしたところ、CさんはBさんが何らかのメンタル疾患にり患してるのではないかと感じ、すぐにでも休養をさせることを考え、その旨をDさんに伝えた。が、Dさんは、Bさんの後任がいないことや、現状をあまり大きな問題として認識していないのか、その程度のことで大げさに、と即座に否定した。
一方でBさんも、自分の体調の変化に気が付いてはいたものの、自分は統合失調症から完全に回復したと信じていたし、そう信じたかった。そしてなによりも、せっかくつかんだ重要プロジェクトのリーダーという地位を途中で放り出すなど、Bさんには到底考えられないことだった。
●再発するメンタル疾患
Bさんの状況変化が気になっていた人事のCさんは、Bさんの上司であるDさんに対して、Bの状況を見ながら、業務の軽減をするよう求めた。しかし現状を問題として認識していないDさんには、なぜそこまでする必要があるのかといぶかったが、一応Bさんの意向も聞いてみようと考えた。それに対してBさんは、まったく大丈夫、の一点張りで、業務の軽減など求めるべくもない、と一蹴したため、Dさんは意を強くし、特に業務軽減を図ることも考えなかった。
ところがしばらくすると、Bさんは、それまで全くなかった欠勤をするようになり、最近では欠勤がちになるようになってきた。また、出社をしても、時折異常な言動があるなど、業務の遂行支障をきたすことが多くなってきたため、ようやく会社はBさんに休職を命じることとした。
Bさんは、ここに至って、はじめて病気が再発してしまったことを認識せざるを得なくなってしまった。主治医への受診を再開したBさんに対して、数か月の療養が必要である旨の診断書を渡した。
●休職期間満了による自動退職
休職して療養に専念するようになり、Bさんの病状はかなり回復してきたが、実際に業務に付くには不安がある。ましてやプロジェクトリーダーなど、もはや勤まるべくもない。Bさんはすっかり自信を無くしてしまった。
そんなBさんに対して、人事のCさんは、まずはリハビリ勤務から始めてはどうかと提案した。リハビリ勤務とは、休職期間中に、少しずつ復帰の準備を進めることで、まずは、特に何もしなくてもいいから、まずは会社に顔を出しにきたらどうだ、ということだった。
しかしBさんは、かつての職場の同僚に顔を合わせることがとても苦痛でもあり、リハビリどころか、かえって病状を悪化させるのではと、躊躇してしまった。
そんな状態がしばらく続き、休職期間が満了してしまったため、Bさんは、就業規則の規定に従い、自動退職という扱いになった。
※2015年1月号から、ストーリー部分のみを掲載しました。