ほこりをかぶった就業規則は格好のターゲット
何年も見直しをしていないような就業規則、紙が変色してしまっているような就業規則、どこにあるのか分からない就業規則、こうした就業規則は、よからぬ意図を持った第三者の格好のターゲットになります。といっても、
「これまで何の問題もない」
「社内でのコミュニケーションは、極めて良好だから…」
などと問題意識をお持ちいただけないことも往々にしてあります。ぜひ「人事労務のリスク管理メモ」2016年10月号をご覧ください。
就業規則は労務リスク管理の最後の砦
労務リスク管理の第一歩として、まず考えなければならないのは、労務管理の現状把握です。中でも、労使の守るべき契約内容のうち職場のルールとしての意味を持つ就業規則が実態に即したものとなっているのか、確認する作業から始めることになります。
就業規則は契約内容である
労務リスク管理を考える上で、就業規則を労働契約の一部分であるという点を忘れてはなりません。就業規則に書かれたたった一つの文言で、法的解釈が全く正反対になることはまれなことではありません。このような法的に重要な意味を持つ文言を有効に活用しながら、労務リスクを最低限に抑えることが就業規則に求められているものです。
就業規則の内容を理解しているか
就業規則が契約内容となる以上、その内容を理解していなければ、契約違反という法的な判断に直面する可能性が高まります。本来、就業規則によって、雇用する従業員を有効に活用するべきものが、逆に就業規則に会社が振り回されるようなことにならないようするためにも、規定内容の表面的な把握にとどまらず、法的な解釈にまで踏み込んだ理解が大切になってきます。
就業規則は就労実態に即しているか
もし実態と就業規則の内容が異なっていた場合でも、就業規則の内容が契約内容として判断されてしまう恐れがあります。
例えば、従業員が配転命令に応じる義務がある旨の規定が無ければ、配転命令ができません。本人の同意のもとで、契約内容を変更する必要があります。もし本人が配転に同意しな場合には、配転できなくなります。
もし就業規則の作成に当たって利用した雛形をそのまま流用している場合には、必ず自社の実態に即しているのか、確認する必要があります。ここは最も大切な点です。
就業規則に沿った労務管理が行われているか
逆に、就業規則の規定は適当であったとしても、その規定内容通りの運用がなされていない場合には、その規定の効力を否定される恐れがあります。
例えば、残業を上司の指示による旨が規定されていたとしても、その就労実態が、残業について、上司の指示が無く、各従業員の任意の判断で行われいる実態があるような場合には、上司の指示が無いルールに反する残業だからと言っても、残業代の支払い義務を免れることはできないでしょう。そもそも就業規則が周知されていないような場合には、就業規則自体が無いものとされかねません。
法改正があった場合
労働諸法令の改正は頻繁です。就業規則が改正前の法律規定に拠っていた場合には、就業規則も速やかに変更しておくことが大切でしょう。もっとも就業規則の規定がが法令に反している場合には、反している部分が無効となり、法律規定が適用されますが、その法律規定に任意規定が含まれているときには、当然にその任意規定はないものとされます。
鉄壁の就業規則でも、トラブルは避けられない
せっかく苦心惨憺して作成した就業規則でも、トラブルが避けられないのでは意味がない、こんなことを言われたのでは身も蓋もない…。ですが、そもそも就業規則はコンプライアンスの中核であって、いわば「法的リスクを軽減する」ことがその目的です。当たり前のことですが、どんなに作り込んだ就業規則があったとしても、その就業規則がトラブルを自ずから防いでくれるわけがありません。なぜならば、トラブルは理屈が発生させるものではなく、感情が引き起こすもの、主観的な意図がトラブルを引き起こすものだからです。
何らかの問題を認識した従業員が、解決行動を起こそうと決意を固めたとことで、でも就業規則がしっかり作られているから解決行動を起こすのは控えよう、などと思うことはまずありえません。むしろ、その鉄壁の就業規則に沿った労務管理がなされていないことを逆指摘される材料になる可能性すらあるのではないでしょうか。そうした指摘があった場合には、まさにその鉄壁の就業規則に沿った対応を改めて迅速に取ることが、トラブルの未然防止、深刻化の防止につながることになります。
とはいうもののの、不当な意図を持った従業員をけん制する材料にはなる
冒頭で指摘した長年改定されていない就業規則の不備を突いて、会社からとれるものは取ってやろう、という不埒な意識を持つ従業員に対しては、そうした余地はこの会社には一切ない、という姿勢を見せることで、事前に牽制をすることができる可能性はあると言えるのではないでしょうか。
法的リスクを軽減するのが就業規則の目的
つまり、労使トラブルが法的判断の俎上に乗ってしまった段階で、会社の守るものが就業規則なのですが、鉄壁の就業規則というものがあるとすれば、それは訴訟リスクに耐えられる就業規則ということになります。会社を就業規則と言う壁で守るということは、その壁をいかに厚く、いかに高くすることで、法的リスクという外からの攻撃を防ぐか、ということです。だからこそ、就業規則は労務リスク管理の最後の砦なのです。
トラブルを回避するのは最後の砦に至るまでのプロセスが重要
トラブルを回避するツールが就業規則だけ、ということになれば、就業規則と言う鉄壁な壁の外では、火がごうごうと燃え盛り、銃弾が飛び交っているとしても、壁をさらに厚く、高くするだけで良いとはとても思えません。就業規則を常にアップデートしておくことは、コンプライアンスの観点からも極めて重要なことですが、就業規則がトラブルを未然に防ぐものではない、という点は重要です。
就業規則はこまめな点検がポイント
会社を守る最後の砦としての就業規則は、常にアップデートが必要です。日々展開されるトラブルや訴訟に拠って、就業規則の規定の脆弱性が明らかにされていきます。その脆弱性に対応することが、就業規則のアップデートであり、見直しにほかなりません。ここで、就業規則の見直し、変更というと、とても大掛かりな作業になりますが、これを普段の労務管理の中に組み込んでおくことで、その負担は大きく軽減されます。
就業規則の見直しは、気づいたところから…
せっかく見直し箇所を見つけたのですから、その場でチェックしておきましょう。また、普段から就業規則を点検することで、就労実態とのかい離というリスクを回避できます。