誓約書はなぜ入社時に取るのか?

採用決定通知に合わせて、あるいは内定通知と一緒に、新規採用者に対して、誓約書への同意を求めることがあるかと思います。その内容は主に、内定取り消しについてのものになるでしょうか。あとは守秘義務とか、就労日までの遵守事項なども含まれるでしょうか。

誓約書の提出は任意

ですが、この誓約書は、当たり前のように新規採用者に提出を求め、当たり前のように回収しているかも知れませんが、これは任意で使用者が労働者に求めているものにすぎません。とはいうものの、この誓約書の提出が通常、採用決定に対する労働者の応諾の意思表示とセットとなっている訳ですから、これを労働者が提出しないという選択肢は、ここで働くことを止めるという場合以外、あり得ないことになります。

入社時の誓約書は確実に回収可能

つまり、入社時の誓約書は、新規採用者からは100%回収可能な任意の意思表示書面、ということになります。もっと言いますと、入社時に誓約書の提出を求めることは、ストレスなく、ほぼ条件反射的に回収できるものであるということです。

時間の経過で誓約書の回収は困難になる

このことは、例えば何らかの誓約書を、入社時、在職中、退職時に提出を求めた場合に想定される労働者からの反応をお考えいただければ、その意味は瞬時に察知できるのではないでしょうか。入社時、在職中、退職時、の順番で、誓約書提出に対する労働者側の違和感、拒絶反応の可能性は高くなると考えられます。労働者にとっては、何で今更誓約書なのか、ということでしょう。

退職時の誓約書は回収できないと考えた方が良い

特に退職時の誓約書は、労働者から見れば、退職後に自分の言動に制約を掛ける内容であることを当然に理解します。そのために、誓約書には応じられない、などと反応する労働者がいるのです。誓約書の提出に応じない労働者に対しては、それが任意の提出書面である以上、強制をすることも、ましてや何らかのペナルティーを与えることもできません。

こうした状況に対処するために、100%回収可能な入社時に、退職後の対応も含めて誓約書の内容として規定し、提出させることが効果的、ということになります。

そもそも誓約書は必要なのか?

ところで、そもそも誓約書はそれほど重要なものなのでしょうか。まさにそもそも論ではあります。この問題を考えるには、誓約書がある場合とない場合の比較をすることです。

就業規則に規定があれば事足りる?

入社時の誓約書の特徴的な、内定取り消し事由について考えてみますが、内定後ということは労働契約成立後ということになりますから、就業規則の適用があることになります。ということは、就業規則に内定取り消し事由が含まれていれば、その就業規則に規定された内容とは、全く別の内定取り消し事由を設ける場合は別として、理屈の上ではあえて誓約書で内定取り消し事由についての同意を得ておく必要はないことになります。

誓約書は使用者の安心のため

それでも誓約書の提出を求める使用者としての意向は、安心を得たい、念を押しておきたい、これまでも慣例として誓約書の提出を求めていたから、というものではないかと思います。もっともこれまで慣例として誓約書を求めていたところ、今回から誓約書を求めないことにした場合、内定取り消し事由をあえて踏み込んで理解をさせなくてもいいという使用者側の判断があった、などと主張される材料にされる可能性はあるとは言うものの、それほど大きな影響があるとは思えません。誓約書の提出に替えて、就業規則の周知を徹底した、という説明で事足りるとも感じますが、どうでしょうか。

入社時の誓約書には、気持ちを引き締めてもらう、という意味合いも

ですが、法的な判断は別としても、誓約書という書面の提出を求めることで、新規採用者に対して、気持ちを引き締めてもらう、入社するという意識を新たにしてもらう、という気持ちの面での安心が大きいのではないかと思われます。

退職時の誓約書になど、確信犯はサインをしない

一方で、誓約書が大きな意味を持つと考えられるのが、退職時の守秘義務であり、競業避止義務でしょう。退職後の競業避止義務などについては、厚労省など複数の行政が法的有効要件などを公表しています。ここでは誓約書に係るテーマについてのみ考えますが、誓約書の提出が任意であることを考えれば、確信犯的に競業行為をしようとする退職者は、まずこのような誓約書にサインをするはずがありません。サインをするのは、おそらくは競業避止義務とは無縁の退職者であり、そう考えれば、誓約書には実質的にどの程度の意味があるのか疑問ではあります。

改めて就業規則の規定を周知する

誓約書の提出をさせることができないとすれば、やはり就業規則に退職後の競業避止義務についても、詳細に規定をされておくことが必須ということになります。つまり、誓約書などで詳細に規定をするべき内容を就業規則に規定をしておき、退職時に改めて退職後の競業避止規定についての遵守を伝えることになるかと思います。

在職中に競業避止義務の誓約書を取っておく

競業行為のリスクが現実の問題として考えられる場合には、在職中に対応しておくことで、そのリスクを軽減させることができる余地があります。つまり在職中に退職後の競業避止行為についての誓約書の提出を求めるということです。

特定の業務への関与は、誓約書の提出を条件に

従業員の退職後に、競業のリスクのある業務については、競業避止義務の誓約書を提出しなければ、その業務に従事させないといった対応、あるいはやはり入社時に競業避止義務規定を盛り込んで置き、在職中及び退職後の競業避止義務について規定をした誓約書にサインをすることを採用の条件にすると言った対応によって、トラブルのリスクを軽減することができるかと思います。

結局、入社時しかない

そうした意味では、やはり誓約書を事実上提出させることができるのは、入社時になってしまう、入社時以外で事実上提出させることができる時期がない、と言っても良いのではないでしょうか。