【人事労務のリスク管理メモ】5月号アップしました

【今回のストーリー】

「お別れのプレゼント」

…配転で異動する同僚に送られたプレゼントは、卑劣極まりないものだった…

「学生アルバイトは何でもあり!?」

…学生気分が抜けきらない新卒間もない店長は、学生アルバイトをサークルの後輩とでも勘違いしているのだろうか…

「こんな時期にケガするなんて、うらやましい」

…一言多い同僚は、誰に対しても突っかかってくる。職場の雰囲気を悪くする天才だ…

「俺から見れば、これは仕事じゃない」

…徹底的にスタッフを見下す所長は「お前みたいなバカを相手にしなくちゃならない俺がかわいそう」とまで言い放つ…

「派遣先にパワハラを隠す派遣会社」

…職場の指導担当のお局社員は、スタッフをいじり放題。耐えかねたスタッフが派遣元に相談したが…

●お別れのプレゼント

今の職場でそろそろ三年になるAは、別の部署に異動することになった。異動といってもフロアが変わるだけで、同じ本社内であることから、送別会などという大げさなものはなかったが、職場の仲間からささやかながらも心のこもったプレゼントを受け取りながら、これまでの三年間を振り返っていた。
そこにAの悪友とも言える同僚Bらから、意味ありげなプレゼントを渡された。「中を見ればわかるよ。でもここで明けない方がいいんじゃない…」と意味深なことを言う。どうせろくでもないDVDだろうとカバンに放り込んだままにしておいたことを思い出したAは、その包みを開けてみると、案の定AVだった。そんなことだろうと思っていたが、ふと中から出てきた一枚のメッセージに、「俺たちみんな見たぜ、瓜二つじゃん…」と書いてある。気になったAは、中身を取り出すと、そのAV女優は、Aが社内で付き合っている彼女のCととてもよく似ていた。気の置けない同僚とはいえ、あまりに卑劣な侮辱と感じたAは、翌日Bらに対して、どういうことかと詰め寄ったが、Bらは「まぁ、見た通り、そういうことじゃないの、Cはとんでもない女だな」なとど笑っている。これはセクハラだ。しかしBらは、「何でお前にAV渡したことがセクハラになるんだよ」と平然としている。これ以上押し問答をしていても埒が明かないし、職場でことを荒らげるのは得策ではないとも思い直し、「度を過ぎた悪ふざけは止めてくれ」とだけ言って、その場を離れた。
数週間後、Aは「B君たちから、なんか面白いプレゼントをもらったんだって?」とCから聞かれ、凍り付いた。忘れたい不愉快な気持ちがよみがえってきた。きっとBらが面白半分にCに話したことは間違いない。Bらに対する怒りが込み上げてきた。ただならぬ雰囲気を察したCは、それ以上このことを話さなかったので、Aもこのことは黙っていようと思ったが、果たしてそれでいいのか。Bらのことが許せないAは、セクハラとして社内的に問題にすべきであると思っていたが、それをすることによってCを傷つけることになるのではないか。
Aはこの問題をどうすればいいのか、葛藤を続けている。

●学生アルバイトは何でもあり!?

Dは居酒屋でアルバイトをする大学生。働き初めてから数年が経つ中堅どころで、お店の中では貴重な戦力だ。しかし最近異動で配属された新しい店長Eに頭を悩ましている。新卒入社の五年目だが、店舗営業には抜群の成績を上げているとかで、会社の評価は上々らしい。ただ年が若いせいか、まだまだ大人げないところがある。とくに学生アルバイトに対しては、先輩風を吹かして、ことのほか厳しい、というより、滅茶苦茶なことを平気で言い放つ。そのため、すでに戦力になる学生アルバイトが数人辞めてしまった。
新しく採用されたアルバイトに対して、いきなり「やる気のないヤツは、帰っていいよ」に始まり、「ミスしたら帰ってもらう」「注文まちがったら食材は原価での買ってもらうから」などとやるので、新人アルバイトはそれだけで委縮してしまう。当然ミスを誘発する。新人のアルバイトFは、自分のミスを、今にも泣きそうになりながら店長のEに告げると、Eは「顔も見たくないから早く出ていけ」の一言だけ。Fが再び勤務に戻ることはなかった。
さすがに見かねたDは、新人への対応が厳しすぎるとEに話すと、「新しい奴隷は使い捨て」…Dは唖然とした。アルバイトはEにとって奴隷なのか。Eの暴言は「この馬鹿がこんなミスをした」などのミスに対するものにとどまらず、「何だ、その顔、クズ、ゴキブリ、ぶん殴りたい」「ブス、デブ、ババア、精神病」…特にかわいそうだったのは、言葉に訛りのあるアルバイトに対してEはからかい半分にバカにしていたことで、彼女はいつも目に涙をためていた。
あまりのひどさに何とかしなければと考えたDは、定期的に巡回してくる本部スタッフにEの言動を打ち明けた。実は以前からEの言動は問題になっているが、馬の合うスタッフが集まるとずば抜けたリーダーシップを発揮するらしい。しかし一方で、その激しい好き嫌いがこれまでにも大きな問題になっていたという。状況を聞いた本部スタッフは問題の重大性を察知して、Eに対する聞き取り調査をすることにした。
Eは事実関係を概ね認めつつも、社会人としてのケジメとしての指導だったなどと弁解していたらしい。軽くても始末書は避けられないだろうと言われ、Eは気を落としていたようだ。しかし、Dと目が合うと、「死ねよ」と小声で言っているのが聞こえた。
本部スタッフが巡回を終えると、少しはEの言動も変わるかとわずかな期待もしたが、そんな期待は一瞬で消え去った。Eはおもむろに、Dにこう怒鳴った。「お前は絶対に許さない。どんなことをしてでもクビにしてやる」

●こんな時期にケガするなんて、うらやましい

一言多い人はどこにでもいて、決して珍しいことではないが、それが自分の職場で、同僚だったとしたら、こんな迷惑なことは無い。それが楽しい一言であればまだしも、辛辣な嫌みの連発では、こちらの気が滅入ってくる。
そんな同僚のGが私の製造ラインにいるが、今日も別のスタッフに突っかかっている。育児休業から復帰したばかりでパートでしか働けないHに対しては、「保育園見つかったの、早く見つけなさい。こっちが大変なんだから。」別の製造ラインのスタッフに応援を頼むときにも、高飛車な態度で見ている方がハラハラするが、それが断られるともっと大変だ。「何っ?使えないわね。断るのあなただけよ。こっちが頭下げたくなくても下げてるのに、あんたの顔見ただけで腹が立つ。」応援を断っただけで何でここまで言われなければならないのか、傍で聞いている私が辛い。
忙しいさなかにけがをした同僚に対しては「こんな忙しい時期にケガするなんて、うらやましい体だね。」新人スタッフが愛想よく笑顔で挨拶すれば、「何をヘラヘラしてんの、やる気あるの?」と言われる始末で、全く取り付く島が無い。G一人で職場の雰囲気をここまで悪くできるのは、ある意味で才能だが、私たちスタッフはたまったものではない。そこで私は、Gの言動に対する問題意識を共有する同僚らと、上司IにGに対する注意指導を求めた。上司Iも問題として考えていたようで、終業後にGに対して、問題を「やんわりと」注意したところ、案の定Gは食って掛かってきた。
「誰から言われたんですか?私が悪いんですか?みんなから嫌われてるってことですか?私もみんなが大嫌い。みんなからパワハラされてる。これで私が辞めたら会社都合ですから、引継ぎはしませんので…」Gの言いたいことが全く見えないまま、上司のIが口を挟む余地もなく話し合いは終わったらしい。

●俺から見れば、これは仕事じゃない

某士業の事務所に勤務するJは、K所長先生から常に「文句」を言われている。叱責でもなければ、怒られているわけでもない。愚痴を聞かされていると言った方がいいかもしれない。愚痴程度なら聞き流しておけば…と言いたいところだが、問題はその内容にある。とにかく徹底的にJを見下している言動が毎日続くことは、苦痛以外の何物でもない。
仕事を始めた当初こそ機嫌がよかったが、徐々に気に入らないことが増えてきたのか、クライアントとの同席の場で「こいつは仕事ができないんで」と言われたのには面食らった。最近では「お前みたいなバカを相手になくちゃいけない俺はかわいそう」などとつぶやいている。
仕事の進捗が遅れると、「お前は頭が悪いのか、発達障害じゃないの?精神科へ行ってみたら」とまで言われたこともある。作業の量が増えれば時間がかかるのは当たり前だし、仕方がないと思うのだが、Kはそう考えないらしい。「俺から見ればこれは仕事じゃない。好きなことをやっているだけ」って、担当されたクライアントの仕事の順番を自分で決めて進めているだけなのに。「お前は与えられた仕事をこなしているだけだ」そのどこが問題なのか。その上「こいつは信用出来ないから」と同僚に言って、Jを監視するよう指示している。残業が増えても「残業は自発的な研修も含まれるから、すべて残業代が出るわけではない。」などと都合の良いことを言って、サービス残業を常態化させている。
先日体調を崩して欠勤した際には、「連休明けなのに、何で体調崩すんだ、休み中何やってたんだ?」と聞いてくる。休みを年休扱いにしてもらう旨を告げると、「これまで職員に年休を使わせたことは無い。お前だけに使わせるわけにはいかない。」などと訳の分からない理屈で拒否する始末だ。
こんな気分次第の発言を繰り返すKが、仮にも法制度の一端を担う士業者であっていいのか、複雑な気持ちを持ちつつも、経営者であるKとの問題をどう解決していいかわからないJは、たまたまハローワークのポスターで知った、労働局の紛争解決制度を活用をすることにした。

●派遣先にパワハラを隠す派遣会社

「ねえ、何してるの?何かやることあるの?」またお局様Lがちょっかいを出している。ベテランのお局様Lはスタッフの指導担当でもある立場を有効に(?)使って職場のスタッフをいじり放題だ。特に入社間もないスタッフは、分からないことも多いのは当然で、まごまごすることもある。そんな状況に手を差し伸べるようなLではない。「サボってると思われるの嫌で、適当なことしてごまかしているんじゃない、みんな一所懸命なのに。」と追い打ちをかけるから、新人のМは何も言えなくなる。Мはお局様Lのスケープゴートになってしまったようだ。
Мの顧客対応にクレームがあったとして、職場でのロールプレイング研修を指示されたМは針の筵だった。他のスタッフはみんな通常業務をしているのに、同じ職場でМだけが、Lから研修を受けている。しかもロールプレイングだ。「声が小さい」「もっと明るく」は叱咤激励のようにも聞こえるが、決して愛のムチではなく、まさに百叩きの刑に近かっただろう。その上、本人を目の前にしても、「あなたはいらない」とか、「あなたは嫌い」と公言してはばからない。
どうしていいかわからないМは、派遣元の上司Nに相談したが「彼女はみんなと同じように接している。まぁ、うまくやっていこうよ。」などとお茶を濁される。仕方なく派遣先の上司Oに相談すると、Lへの聞き取りをしたらしいが、Lは「みんなには同等に接しています」と平然と答えているらしい。ところが、Мが派遣先の上司Oに相談したことを知った派遣元の上司Nは、Oに対して、こびへつらうように「何も問題は無いかと思います」と盛に揉み手で答えている。一方でМと目が合うと、キッと睨み返してきた。そんなに派遣先が怖いのか。会社がアテにならないと感じたМは、会社外部の解決制度の活用を考えている。