【人事労務のリスク管理メモ】3月号アップしました

【今回のストーリー】

「課長は褒めてくれる部下が好き」

…課長の嫌がらせを部長に告げると、部長は「課長は褒めないと評価もしてくれないよ」と公然という。こんな状況で仕事は出来ないと退職と申し出ると、思わぬ展開に…

「同僚との不和に無関心の上司」

…もともとコミュニケーションが苦手でおとなしいDにカーレースの趣味があることを知った同僚は、からかい半分で「俺の車でドリフトしてみろ」と強要したが…

「「バカ」とは言っていない、「バカみたいだ」と言っただけだ」

…パワハラ常習犯のGには、何を言っても開き直り、ああ言えばこう言うの繰り返しで、人事の対応にすら脅しを入れる念の入れようだった…

 

●課長はほめてくれる部下が大好き

営業課長のAは、言いたい放題、やりたい放題で、職場の同僚は辟易しているが、それを知っていながらB部長は黙認状態で、何もしようともしない。部署としても営業成績はそこそこ残しているので、Bも現場はAに任せている状態だ。もともと神経質なAは、常に営業成績が気になるようで、休みの日でも、明日の商談は大丈夫か、などと構わずメールを送ってくる。少しでも返信が遅いと激高し、評価に関わるぞ、次は降格だ、などと言われることは日常茶飯事だった。
朝礼では、無理やり高い目標を部下に明言させ、結局実行できないと、全社員の前で「私は命令に背きました」と言わされている。そのあげく正社員としての能力に欠けていると言っては、アルバイト以下だ、結婚などできる訳が無い、とわざわざ結婚を控えているCに向かって言ったりする。特に叱責されることの多いCは、全社員からダメ社員のレッテルを張られている、といつもしょげている。一方で、お気に入りのスタッフからおべんちゃら攻めにされるとAはご満悦で、気色の悪い甲高い笑い声が響く…
さすがに問題と感じた私は、A課長に普段の暴言を改めるよう求めると、今度は攻撃の矛先が私に向かってきた。これまで何の注意もなかった電話での応対を、「声のトーンがおかしい、不快だ」に始まり、「パートへの対応が厳しいようだが、パワハラだと言われている、どうする」などと、今度はお気に入りのパートを使ってパワハラ加害者に仕立て上げようとしてきた。それだけでは飽き足らず、今度は人事考課で最低評価をつけてきた。
これまでのこともあり、さすがに黙っていることもできず、B部長にAを注意して欲しいと求めたが、B部長は、「Aは褒められるのが好きなんだよ。それができないと評価もされないし、Aの下で働くのは難しいんじゃないか」と、全く問題として認識していない。それなら仕方がないと異動を希望すると、「それじゃ責任を持って後任を連れてこい」と言われる始末だ。
こんな会社にいる意味があるのだろうか、これまで十年近く勤めてきたが、潮時か、と退職届を提出した。Aは勝ち誇ったような表情を見せたが、事態は思わぬ方向に向かっていった。私の退職届をきっかけに、同僚の半数以上が、一斉に異動や退職を申し出たらしい。嫌な思いをしているのは自分だけじゃない。事態を重く見た人事は、A課長から聞き取り調査を行った。
追い詰められたA課長は浮足立ったが、また私に責任を擦り付けることを思いついたらしい。どうやら、私が今回の一斉退職、異動届の主犯格で、懲戒処分に値する、などと言い始めたという。おまけに男性社員には色仕掛けで今回の行動をけしかけた、と言うに至っては、もはや開いた口が塞がらない。人事は私にも聞き取りを行うらしいが、まともな判断ができるのか、まずはその点を見定めることが肝要か、と妙に冷めた気持ちで私は考えていた。

●同僚との不和に無関心の上司

もともと職場でのコミュニケーションは苦手なDが、たまたま趣味の車で出勤したところ、同僚のEにつかまり、Dがレースのライセンスを持っていること、近々レースに出ることなどを話したことをきっかけに、Eから執拗に絡まれるようになった。
引っ込み思案なDがレースなんて信じされない、俺の車でドリフトしてみろ、とEから半ばからかう様に何度も言われるので、仕方なく休憩時間中に会社の駐車場で三回ほどドリフトした。それをみたEは激高し、Dに殴りかかってきた。「俺の車に何をしてくれたんだ…」
それからDはEから、何かにつけ嫌がらせをされた。明日の担当者への引継事項を記録するノートには、Dが書いたところだけぐちゃぐちゃと棒線を引っ張り、読めない、字がきたない、何を言っているのか分からない、などとその上から書きなぐっている。
職場での私語でも、Dの体形を揶揄する発言や、「Dの弟はニートだぜ、姉貴は不倫して出戻りだってよ」と家族まで引き合いに出す卑劣さだった。Dはもう職場に居ることもいやになり、欠勤が目立つようになった。
そんなある日,Dは上司のFから呼ばれ、職場の中にうまく溶け込めないようだが、と切り出され、君にはもっといい職があるかもしれないね、などと、やんわり退職勧奨をほのめかしてきた。何も言えないDは、ただ黙ってうつむいていた。

●「バカ」とは言っていない「バカみたいだ」と言っただけだ

すでにパワハラ申告が五名から出ているGは、中堅の管理職だが、部下に対する厳しい言動で、これまでにも何回か問題にはなってきた。しかしG自身は、「叱責がパワハラだというのなら、部下に対する指導など不可能だ」と開き直っている。
今回も具体的な言動が問題となっており、事実関係の確認を人事がしているが、理屈をこねて自分を正当化するGは厄介だった。「コップの水をかけられた、と言うが、たまたま何かのはずみで水が顔のかかっただけだったらどうする、水がかかっただけで処分対象なら、この間俺のズボンにお茶をこぼした女子の事務スタッフも処分対象だろう」とか、「バカ、といったというが、バカとは言っていない、バカみたいだ、と言ったのだ」「給料泥棒などとは言っていない、お前の仕事までカバーしてる俺に、その分の給料をかえせ、と言っただけだ」「殴ったのではない、小突いただけだ」「屋上から自殺しろと背中を押したというが、飛び降りてみたらどうだ、と肩を叩いただけだ」と、万事この調子だった。
また「この程度の聞き取りで弁明の機会が与えられたとは思えない。これで処分されたとしても法的には無効だ。そもそもこの程度の問題で処分など聞いてあきれる。」などと人事に対する脅しも抜かりが無い。自分の発言に酔って興奮しているのか、その勢いは増すばかりだ。
暴走するGの話題は役員にまで飛び火した。「俺にコミュニケーション能力がないという役員がいるらしいが、職場の飲み会に参加しないことと、コミュニケーション能力とどう関係があるのか。売り上げ不振の原因を飲み会参加の可否と結びつけるなど、笑止千万だ。」もう留まるところを知らないGの放言大会を、人事はどう判断すべきだろうか。