【人事労務のリスク管理メモ】2月号アップしました

【今回のストーリー】

  1. そんなに私が悪いのか…鳴りを潜めていたいわくつきのお局が、ついに本性を現して…
  2. パワハラが原因と書かれた退職届…会議で上司の提案に疑問点を指摘したことをきっかけに、上司による陰湿なパワハラの罠にはまってゆく。耐えかねた果てにパワハラが原因と書いた退職届を提出したが…

●そんなに私が悪いのか

Aは大手飲食店チェーンに勤める中堅社員で、最近他店舗からこのB支店に異動してきたばかりだった。実はこのB支店には曰く付きのお局様Cがいて、自分の気に入らないスタッフをあからさまに嫌悪する言動を撒き散らすため、ターゲットとなってしまったスタッフは、泣く泣く離職に追い込まれていた。かつては、「アホ」「気持ち悪い」「消えろ」などと職場で喚いていたが、どういう風の吹き回しか、たしなめられたのか分からないが、最近では大声で罵るようなことはなくなっている。彼女も年を重ねて性格も丸くなった、などと評する向きもあるが、ものは言いようだ。同じ人間が、そんなにおいそれと変わるわけがない。
異動当初は戦々恐々だったAも、そんなCとも、今ではCが問題のあるお局様だったことなど忘れたかのようのに、特に問題なく仕事をしていた。
そんな折、ある慌ただしい年末の人員配置でちょっとした連絡ミスがあり、アルバイトのスタッフDがシフトに穴を開けてしまい、社員でカバーしなければならないことがあった。その程度のことであれば、しばしばあることでもあり、さして問題となるようなものでは無い。ところが、店長がDに対して連絡の徹底をするよう注意すると、Dは「Aに伝えた」と弁解したため、店長はAに確認した。店長にDのことを聞かれたAは「そのあとすぐにシフトを作成しているCに伝えたはずですが」と説明した。
翌日、出社すると、どうも雰囲気が物々しい。いつもと変わらず挨拶をしても、何人かから小声で返事が帰ってくるだけで、Aは、ただならぬ空気を感じ取った。そのまま自分の席に着くと、おもむろにCが、つかつかとAの前にやって来て仁王立ちのように立ちはだかると、開口一番、「あんた、あたしに責任擦り付けたな?」と職場の同僚がいるなかで、大声で言い放った。その怒鳴り声とその怒りの形相に、恐怖のあまり、Aの体はガタガタと震えだした。Aは、Cが問題のお局であったことを思い出した。
それからのCは、まるでそれまでとは人が変わったように、というよりも、本性を現わした、と言うべきか、Aに顔を合わせる度に、執拗にAを攻め立てた。「あんたのお陰で、あたしは犯人扱いされた」「ほんとにあたしに伝えたの?いつ?どこで?何時何分?」「まるであたしが全部悪いみたいに言われてるって、どう言うこと?」「一人で良い子ぶりやがって、何様のつもりだ」…職場の雰囲気は最悪だ。店長は見て見ぬふりをしたままで、その場を何とかしようとするそぶりさえ見せない。
Aは店長に「なぜこんなことになるのか、私はCが悪いなどと一言も言っていないのに…」とこぼしたが、店長は「私はただ確認をしただけ。Cが過剰に反応しているだけだ。ついに化けの皮がはがれたか。」などと苦笑している。店長の認識はその程度か。おかしいことなど何もない。Aは孤軍奮闘するしかないのか。
Cの地雷の踏んでしまったことは確かだが、あまりに無防備だったことを今更後悔しても始まらない。
職場の中でただ一人、日々つるし上げ状態のAは、このまま土下座をして謝らなければならないような雰囲気に飲み込まれている。こんな状態がいつまで続くのか。もしかしたらCに伝えていなかったのかもしれない、いや絶対に伝えたはずだ、でも慌ただしい中で、聞き流されていたかもしれない、なぜすぐにその場で確認しなかったのか、結局私がすべての原因なのか、心の中で葛藤しながら、でも、私が何をしたというのか…Aは釈然としない気持ちの置き場がなかった。

●パワハラが原因と書かれた退職届

Dは入社三年目の契約社員。正社員を希望していたが、正社員の募集は無かったため、契約社員として採用された。契約社員という立場に納得していたわけではないが、これまで経験を積んできたプログラミングの仕事を続けられることは、何物にも代えがたい。
経験者であることを会社に評価されていたDは、企画会議などにも参加をすることもあり、それなりにやりがいも感じていた。
しかしある企画会議で、直属の上司であるEの提案に対して、率直な疑問を呈したところから、Eとの関係がぎくしゃくしてきた。
会議では決して礼を失した発言をしてはいない。これまでと同様、求められた意見に対して、自分なりのコメントをしただけだ。
だがEは「会議の場で、俺の顔に泥を塗った」とまで他の管理職に漏らしているらしい。Dは慌てて上司のEに他意はないことを弁明したが、表情を変えず何も言わない。つまり「無視」ということか。もっとも普段の業務は個人で取り組むものが多いため、Eがどう思おうと関係ない、粛々と与えられた仕事をするまで、と割り切っていた。
しかし、その後の会議では、Dの提案に対して逆にEが、「素晴らしい提案で文句のつけようがありません」などと嫌味を連発するようになった。このDとEのやり取りに他の参加者も苦笑してあきれている。
そんな会議に嫌気がさしたDは、Eに対して、今後は会議への出席を控えたい旨を告げた。それに対してEは、出来れば出席してほしいが致し方ない、と了承したかのような返答をした。Dはその後の会議には欠席した。
ところが、翌日部長から、無断で会議を欠席したことを強く叱責されたため、おどろいて上司のEに欠席の旨を告げたことを話したが、Eは「全く知らない」と、しれっと言い切った。それに加えて「事前に出席するよう促しておいたのに…」とまで言うEに、Dは唖然とした。これは一過性の問題ではなく、これからもこうした嫌がらせが続くのかと、嫌な予感がした。
それから数か月後の契約更新の面談で、DはEから、屈辱的な言葉を聞く。「お前、あえて俺を避けて、ラクして生きようとしてない?契約社員はラクでいいよな。好きな仕事だけやって、やりたいことだけやって。だから正社員になれないんだよ!お前なんか契約更新しなくたっていいんだけど、かわいそうだから更新してやるんだからな。よく覚えとけ。これからは自分の立場をよくわきまえるんだな。」とだけ言うと、更新書面を目の前に放り投げるように置いたまま、部屋から出て行った。
何でこんなことを言われなければならないのか、こんな気持ちのまま、とても仕事ができるとは思えない。気持ちの整理がつかないまま、Eに対する激しい憤りを感じたDは、人事に対して、今日のEの言動を説明し、許せない気持ちを吐露した。
翌日、人事はEから聞き取りをした。するとEは、「そんなことを言った憶えは全くない。すべて作り話だ。」と言ったという。Dはバカバカしくなり、更新書面にサインをせず、期間満了での退職届を提出した。その中でDは、紋切り型の「一身上の都合」とは書かずに、「上司のEによるパワハラによって仕事の継続が困難となったため」と記した。しかし、退職後に届いた離職証明書の離職理由は「一身上の都合」とされたものが交付された。会社からも裏切られた気持ちになったDは、法的な解決を決意した。