【人事労務のリスク管理メモ】1月号アップしました

【今回のストーリー】

  1. 経営者が代わり、転落してゆく私
  2. ぽつねん

●経営者が変わり、転落してゆく私

高い専門性を買われて特殊な技術部門Bの部門長としてヘッドハンティングされたAは、入社三年目で、ある節目を迎えていた。半年前に合併で経営者が変わり、Aが責任者を務めるB技術部門が、採算が取れていないことを問題視されていたからだ。
予想以上の厳しい評価を受けていることを知ったAは、短期間で現状を打開しなければ、という思いに駆られ、部下たちにも厳しいノルマを課さなければならなくなった。タスクのリミットは一年で、もうすでに半年が過ぎようとしているが、大型案件の失注なども重なり、Aは精神的にも追い詰められていた。
そんな中、部下のCがメンタル疾患で休職するという。確かに体調不良を理由とする欠勤が目立ってはいたが、そこまで悪かったのか…一方でその原因はAの行き過ぎた指導にあるとされ、聞き取り面談を実施するという。いわゆるパワハラの容疑をかけられたらしい。部門の業績改善に四苦八苦している中で、パワハラ云々など言っていられる場合ではない。Aの正直な気持ちだった。とにかく何とか結果を残さなければ…
ところが、リミットまであと三か月を残した段階で、本社から、Bをリストラ対象部門として大幅な衣替えをすることが、決定事項としてAに伝えられた。Aは目の前が真っ白になり、卒倒しそうだった。
おりしも人事考課時期でもあったが、評価面談では、御多分に漏れず、五段階の評価で、降格対象となる最低評価をつけられ、結局新年度から降格となり、研究部門の次長職に異動となることを告げられた。
面談では、B部門のリストラとその責任を取らされるかのような降格に、終始気もそぞろだったが、併せて、退職オプションなるものが提示されたときに、ふとAは我に返った。この状況は、B部門のリストラであると同時に、A自身のリストラである、と。
退職オプションとは、一週間後の期限までに自主退職を申し出れば、退職金の上乗せと転職支援をする、というものだったが、そもそも何で自分が自主的に辞めなければならないのか、リミットまでまだ三か月あり、その間に所定の目標はクリアできる可能性だって十分残っていたはずだ。それを一方的に方針を転換して、B部門をリストラするからと言って、なぜ自分が最低評価を受けなければならないのか、釈然としない思いがこみ上げてきた。
Aは人事に対して、結果も出ていないのに最低評価とは、納得ができないことを告げると、この状況を作り出したのは、他ならぬA自身ではないか、と開き直られた。これは論点をぼかしている、と悟ったAは、私は会社の方針に従って目標達成に向かって業務に従事してきたが、何を理由に最低評価をつけたのか、明確な理由を説明してほしい、と迫った。
人事担当者は一瞬黙り込んだが、これはAがBの責任者としての立場に求められるパフォーマンスが出せていないからだ、と言い出した。それではそのパフォーマンスとは何か、と問い詰めても、抽象的な形容詞でのらりくらりとお茶を濁すだけで全く的を得た答えをしない。
Aは「これでは理由なく最低評価をつけたと解釈せざるを得ませんが…」と切り返した。人事は、眉間にしわを寄せ、口を真一文字に結んだまま黙り込んでいたが、おもむろにこういった。「君にはパワハラ加害者としての容疑がある」…
問題があらぬ方向に進む状況に、Aは嫌気がさし、これ以上人事の決定にあらがったところで、自分に対してメリットがあるとも思えない、そう感じたAは、退職オプションは選択せず、降格と異動を甘んじて受け入れることにした。
しばらくは心にも休養が必要だろうと自分を納得させようとしたAだったが、異動した研究部門は、自分を退職に追い込もうとしているとしか思えない周囲の対応に、まさに針の筵だった。上司である所長からの無視、連絡不徹底は言うに及ばず、部下となる職員ですら、目を合わせよともしない。まるでB部門をつぶした張本人であるかのようなうわさまで流され、心身共に疲弊してしまった。出勤自体が苦痛に感じてきたこともあり、何とかしなければ…そこでAは…
これは所長によるパワハラであると考え、コンプライアンス部門に相談した結果、パワハラと認められ、一方で三か月ほど療養のため休職することとなった。
復職後は異動となったが、いまは使用していない六畳ほどの狭い事務室をあてがわれ、毎日誰とも話をしない日々を送っている。当初はメンタル面の改善がみられるまでの一時的なリハビリであると聞かされていたが、半年たち、一年経っても何の音沙汰もない。人事に、早く通常業務に戻してほしいと求めても、今の業務をこなしながら、少しづつ慣れていってもらえばいい、などと的外れの回答をする。
業を煮やしたAは、いつまでここにいなければならないのか、と問い詰めると、「会社の信頼が得られれば…」という答えが返ってきた。私はこの独居房のような事務室で、いつまで服役させられるのだろうか…Aは、入社からこれまでに至る理不尽な仕打ちに、どう耐えればいいのかを考えることしかできなかった。

●ぽつねん…

Dはいつも一人で、ぽつねんとしている。入社以来、無遅刻無欠勤で勤怠は良好だが、職場の同僚とのやり取りが、あまりに少ない、というか、能動的に話しかけるタイプではないためか、配属されてか三か月も経とうかというのに、いまだに職場の中でなじめず、浮いた存在のままだった。
そのため職場の同僚からも、その状況が特に問題であるとも感じなくなっているようで、Dは変わっている、という評価が浸透してしまったようだ。
ところが、そんなある日、Dは上司のEに、いきなり、私はパワハラに遭っている、と相談した。
みんな楽しそうに話をしているけど、私を仲間はずれにしている、わざと私の知らない話で盛り上がっている、私にだけお菓子を配ってくれない、仕事も教えてくれない…
そこでEは、ほかのスタッフに話を聞くと、いつも一人のDは話しづらい、近づき難いオーラ全開で、どうしていいかわからない、という。
そこでEは、Dに対して、他の同僚の代弁をした。それは誤解で、みんながDのことを嫌っている訳ではない、逆にEも自分からもっとコミュニケーションをとろうとしたらどうか、と促すした。
するとDは、表情一つ変えず、私はただ与えられた仕事を粛々とこなしたいだけです、と開き直りのように答えるだけだった。