【人事労務のリスク管理メモ】6月号アップしました

経営者の知らないところで、些細な問題は頻発している

そんな些細な問題にいちいち対応していられないというのが本音かと思いますが、職場は人間関係の組織である以上、感情的なすれ違いという問題が常に付きまとう、という認識をしておくことが大切かと思います。そうした問題に経営者自らが対応する必要は無いとしても、職場全体で適切な対応がなされるような方向性を打ち出すことは、労務リスクを軽減するために必要なことと考えます。 特にパワハラなどの得体のしれないトラブルは、まさに感情的なすれ違いの結果がエスカレートしたものです。そのパワハラの「加害者」とされるのは、約二割が経営者であるというアンケート結果があります。これはこれで問題として考えなければなりませんが、一方で裏を返せは、パワハラの八割は経営者の伺い知らないところで発生しているということになります。 部下に対して絶対服従を強いる上司がいる一方で、何でもパワハラと言いたがる部下もいます。ここまで極端ではないとしても、感情的なすれ違いが、取り返しのつかないトラブルに発展することもある、ということは常に考えておかなければならないと思います。

【今回のストーリー】

1.小声でブツブツ文句ばかり言っている上司

Aは入社数か月の新人で、上司や周りの先輩社員から業務を教えてもらいながら仕事をすすめているが、いつも気になるのは直属の上司で最も古株のBだった。 Bは神経質なのか、ちょっとした物音にもいちいち文句をつけているのか、ブツブツうるさいとか静かにしろとか、小声で言っているのが、またまた近くに席のあるAには気になってしょうがない。

もともと静かな職場であるが、コップを置く音とか、携帯のマナーモードでの振動とか、パソコンのキーをたたく音まで、とにかく気になるらしい。 またBの言動はつっけんどんで、一を聞いて十を知れと言う古いタイプなのか、業務上の指示がはっきりと分からない。特に新人のAにとっては、不慣れな部分があることも手伝ってか、常に怒られているような気持ちになっている。

つい先日も、たまたまとった電話がB宛であったため、取次を求めると、Bはただ「はぁ?」と答えるだけで、その電話取ろうともしない。見かねた同僚が間に入って事なきを得たが、後でわかったのは、先方の会社名を告げなかったことが不満だったらしい。

万事この調子でAは次に何が起こるのか、不安でたまらない。これはパワハラなのか、そうであればどこかに訴えて、会社も辞めようとすらAは考えている。

2.坊主にしろと命じる上司

Cが入社数か月たったころに、上司であるDから、「今後はもっと仕事に気合を入れろ、まずはその気持ちを表せ」といって坊主になるように言われた。

周りの同僚たちは何がおかしいのか下を向いて苦笑しているようだったが、新人のCには状況を冷静に考えることができるような状況ではなかった。さすがに坊主には抵抗があったので、ショートカットにした。これでもCにはとても勇気がいることだった。

ところがこれを見た上司のDは、それは坊主ではない、気合が足りない、など執拗に坊主になるように求めてくる。さすがにそれは出来ないと拒否すると、今度は「俺の命令に従えないのか」と怒り出す。そして命令に従えないのであれば会社を辞めたらどうだ、とまで言い始めた。

新人のCにとっては、これが本気なのか冗談なのか、冷静な判断できない。本当に坊主にならないといけないのか、真剣に悩んでいる。

3.上司の余計な一言に腹が立つ

年休の消化について、会社の方針もあり、徐々に積極的に取得できるような雰囲気になってきた。Eはたまった年休残を、少しゆっくり旅行でもしようと思い、繁忙期を避けて上司Fに申請した。

すると上司は、その期間は研修の予定があるので、出来れば別の日にしてほしいと求められた。しかし実際には、別に日に取得できる保証はなく、また一方でEは、すでに旅行のチケットまで購入してしまっていたので、できれば取らせてほしい、と食い下がった。

すると上司のFは、研修の大切さを強調して翻意を促したところまではいいが、それに加えて「休んでしょうもない相手とデートなんだろう」とか「どうして休むのならその理由をみんなの前で言ってもらう」などと暴言を吐き始めた。「研修とデートどっちが大事なんだ」などと延々言われたため、職場の中でもあり、Eは致し方なく年休の取得は諦めた。

すると上司のFは、「ほらみろ、やっぱりしょうもないデートだった」などと捨て台詞を吐いた。

しかしEはデートなどといった覚えはなく、一方的にデートと決め付けられ、無性に腹が立つ。これはパワハラ、セクハラではないかと考え、Fに対して謝罪を求めたいと考えている。

4.最低評価で降格減給は許せない

Gは入社十年を超える中堅社員だが、今回の人事考課で初めて最低の評価をつけられた。確かに上司がHに変わってから、どうもウマが合わないというか、業務についての指示一つにしても、前の上司の方がはるかに仕事は出来たので、どうしても比較してしまう。それでついつい、「以前は…」などと献言したこともあったが、決して礼に欠けることはなかったと思う。ただ、そうした気持ちが表に現れていたかもしれないとは感じている。

しかしだからといって最低評価はひどすぎないか、とGは憤っている。営業成績も目標は達成しているし、遅刻欠席が目立つわけでもない。第一評価者である上司のHに理由説明を求めても、のらりくらりと話をかわすだけで、肝心な説明は一切しようとしない。業を煮やしたGは、理由なく最低評価をつけることは許されないのではないか、と暗に法的な解決をほのめかすと、Hは「そういう姿勢こそが問題ではないのか」と鬼の首を取ったように言い返してきた。

これ以上Hと話をしても無駄と感じたGは、人事にこれまでの経緯を話し解決を求めたところ、逆に「これ以上事を荒立てるのは、君にとって得策ではない」などと諭されてしまった。仕事はできないが社内政治の得意なHは人事も味方につけたらしい。今後はやはり社外の解決機関を活用せざるを得ないか、あるいは社内での立場を悪くしないためにHの軍門に下るか、迷っている。