「いつも私だけお菓子を配ってもらえないんです」
「おやつの時間になると、必ず一人になって…」
これも珍しいご相談ではありませんが、おそらく大抵の方は、こうした問題について耳にしたとしても、まず深刻な問題として考えることはありません。というより、「その何が問題なの?」という気持ちになるのではないかと思います。
「子どもじゃないんだから、おやつをもらえないからって、それを会社に相談してくるのもどうかと…それがパワハラとか何とか言われたって…」というのが、本音ではないでしょうか。
それに対して、
「それじゃ、代わりに私からおやつを上げるよ」
と応じて本人が納得しているとすれば、それは「おやつをもらえないこと」が問題だったのであって、「おやつをもらう」ことで問題が解決したわけです。
しかし大抵の問題はそうではないと思いますが、どうでしょうか。おやつをもらえないことを躊躇しながら相談する従業員が望んでいるのは、「おやつをもらう」ことなのでしょうか。おそらくは、仲間はずれにされることが苦痛なのではないでしょうか。代わりに上司からおやつをもらったとしても、問題は解決しません。つまり、おやつの問題ではない、ということに気が付くことがとても重要になってきます。
「そうは言っても、所詮おやつだろ」
とお感じになっている方に、少し想像力を膨らませてみます。
会社の飲み会で、上司や社長がねぎらいの言葉をかけながらお酌をして回ってきます。次に自分の番か、と思いきや、あからさまにあなたを無視するようにすり抜けて、あなたの隣の同僚に声をかけながら、お酌をしたとしたら、あなたはどうお感じになりますか。そして、次の飲み会も、その次の飲み会でも、社長はあからさまにあなたに対して「お酌飛ばし」としたとしたら…
おそらくあなたは「社長から嫌われた」と感じ、何かまずいことでもしたのではないか、いったい何があったのか、などと思い悩むのではないでしょうか。離職すら頭に浮かんでくるのかもしれません。そのようなときに、
「そうは言っても、所詮お酌だろ」
「じゃ、代わりに俺がお酌してやるよ」
同僚からそう言われて、あなたは納得できるでしょうか。これはお酌をしてもらえないことが問題なのではなく、仲間はずれにされた、無視されたことが、あなたにとっての重大な問題であると気が付いて頂けると思います。
お菓子外しの話に戻りますが、お菓子外しは、毎日毎日、こうした状況が起こっているわけです。「おやつを配ってもらえない」という相談にたいして、ここまでお読みいただいた方は、これはかなり根の深い問題であるとお感じになり、やはり放置するわけにはいかないか、というお気持ちになったかのではないかと思いますが、このときに大切なことは、この問題は「お菓子」の問題ではなく、仲間外れ、無視の問題であると捉えることです。
「お菓子」の問題として捉えると、「何を勘違いしているの?」ということになるからです。
そもそも「お菓子外し」とは何か
実は先日ある方から、「お菓子外し」の定義について尋ねられ、一瞬言葉に詰まってしまいました。確かに言葉を使う以上、その定義を明らかにしておくことは、その意味がどの程度あるのかは別として、重要かもしれません。
ここで取り上げている「お菓子外し」は、上記とも重複しますが、仲間外れ、無視、の具体的な態様です。いわゆるパワハラの範疇にも含まれ得るものと考えれば、職場において、業務上の優越的な関係を背景にして行われる嫌がらせの一形態であり、仲間外れや無視をするといった嫌がらせの意図をもって、その職場において任意で配布されるようなお菓子を、ある特定の対象者に対してだけ配らない、渡さない、というものになるかと思います。
そう考えますと、例えば、職場の同僚がお土産として職場に持参したお菓子を、職場の同僚らに配布するような場合で、ある特定の同僚のみに配布をしなかったことがあったとしても、これをもって即、ここでいうところの「お菓子外し」には該当しないことになります。
一方で、これに腹を立てた、そのお菓子を配ってもらえなかった同僚が、今度は意趣返しで、自分が持参したお菓子を職場の同僚らに配るときに、自分にお菓子を配らなかった同僚に対して、わざとお菓子を配らなかった、ということがあったとしても、これもここでいう「お菓子外し」には該当しないことになります。
その理由は、あえて理屈を言えば、「お互いに」お菓子を意図的に配っていないことは、優越的な関係を背景にしていないことの表れとも言えるからです。やられたらやり返す、ありていに言えば、子供のけんかです。もしかするとうっかり渡し忘れた可能性も考えられるのですから、最初にお菓子を配ってもらえなかった同僚は、少なくとも、その点を確認してから、報復=子供のけんかをするべきであったはずです。
ですが、そんなことをどう確認するのか、私はお菓子をもらっていないのでください、なんて言えるか?という声も聞こえてきそうですが、ここはコミュニケーション能力の問題です。例えば、ですが、
「あなたが配っていたあのお菓子、おいしそうだね。私も今度買ってこようかな。どこで買ったの?」
などと問いかけてみることで、状況が伝わるかもしれません。解釈の仕方によっては相当な嫌味ですが、もしうっかり配っていなかった場合なら、「おいしそうだね」に反応してくれれば、「あれ、食べてないの?」ということになり、誤解が解けるかもしれません。ですが、意図的に配っていなかったとすれば、この同僚は、おそらく、あからさまに嫌な顔をするのではないでしょうか。辛辣な嫌味だからです。それを知ったうえで報復をすれば、誤った報復にはならずに済むとはいえるかもしれませんが、実際に報復なのですから、その相手の同僚との関係性は、当然悪くなるでしょう。報復をしていくらか溜飲が下りるとしても、それに対する代償のほうがはるかに大きいことに気が付く必要があると思います。
「お菓子外し」の相談にどう対応するか
以上は想定される当事者間のやり取りですが、相談窓口等に何らかの相談があるとすれば、おそらくはこうした関係性の悪化に至ったこの段階ではないでしょうか。ここでの問題解決のゴールをどのあたりに見定めるか、が悩ましいところではないかと思います。本来の問題解決であるところの、当事者間の関係改善については、この「お菓子外し」の状況が長期間にわたっていたとすれば、かなり困難かもしれません。少なくとも「お菓子外し」をしていた当事者が、誤解(誤解ではないとしても…)を解くための、表向きだけでも弁解をすることと、今後はこうした嫌がらせをしないことを明言させることは最低限必要ではないかと思われるところですが、一般論として、お菓子外しは「それは気のせいじゃない」で済まされる傾向のあるものであることを考えれば、反省を求めるなどは到底無理な話で、弁解すらする意思を持たないかもしれません。
個人的な感情の問題であればともかく、これがスタッフ間の仲間割れや、グループによる特定のスタッフの排除であるとすれば、お菓子外しという表にたまたま現れた状況に取らわれず、業務遂行にあたってどのような言動があるのかを確認することの方が、本質的な問題解決に結びつきやすいのではないかと思われます。つまり、お菓子外しの問題が往々にしてお菓子をもらえないことが問題として考えられてしまうため、「所詮お菓子だろ」という認識から、問題の本質が見えなくなってしまう問題を回避することが重要であるということになるかと思います。
問題解決のための方法はまさにケースバイケースです。具体的な対応についてはこちらからご相談ください。