人材として活用するというイメージが描けるか
昨今の人材不足の折、「とりあえず、まぁいいか…」で採用決定をしないまでも、明らかに採用判断のハードルは下がっているのではないでしょうか。応募者の絶対数が激減している状況で、ハードルが下がることは必然であり、採用判断の是非を問題とする余地はないかもしれません。ですが、採用するということは、人材として活用するということであり、その対価として賃金の支払い義務が生じることをお考えになれば、採用すること自体に意味があるのではなく、人材として活用して、初めて採用したことの意味があることになります。
手間をかけずに人材能力を見極める工夫をする
採用しても、人材として生かせなければ、人件費の無駄であり、逆に問題を起こすような人材であれば、賃金プラスアルファの損害が生じていると考えるべき状況ではないでしょうか。そうした事態がすでに起きているとすれば、他たちに人事労務管理の問題として対応をしなければ、被害はさらに大きくなってしまします。この先の対応については別のコラムでコメントしますが、ここでは、こうした事態をどう未然に防ぐか、そのために如何に手間をかけずに人材能力を確認するか、について提案をしたいと思います。
例えば、実際に作業をさせてみる
結局、この一点に尽きるのではないでしょうか。人材能力を図るために、様々なテストをすることをお考えになるかもしれませんが、紙のテストでわかることは、紙の上での成績にすぎません。テスト問題を解く能力をお求めになるのであれば、それは一番適切な方法ですが、接客対応の能力をペーパーテストで確認することは不可能というものです。接客は紙の上でするものではないからです。
経理の実務能力を確認する場合…
「私は前職で、会計処理に携わっていましたので、日々の会計処理は得意です」と履歴書などに書かれていて、資格欄には「簿記2級」とあることだけで、経理スタッフとして採用していいのか、判断してしまうことはリスキーではないでしょうか。もっとも蛇足ですが、「簿記2級」とだけ書くことは実際にはないかと思います。おそらく「日商簿記検定2級合格」とか、具体的な試験の名前が書かれるはずで、もし「簿記2級」とだけ書かれていたとすれば、その段階で「?」かと思います。
経理担当者の同席は必須
ここから先の判断は、現場の責任者の同席は不可欠で、人事だけで対応することは困難かと思います。それは、次のようなやり取りが必要になるからです。
「会計処理が得意と書いてあるけれど、実際に何をしていたのが、説明をしてもらえますか?」
などとお聞きになることは当然必要でしょう。それに対して、
「日々の入力作業です」
という回答があった場合には、
「入力作業について、具体的にお話しいただけますか?」
と返します。
「えーっと…パソコンに入力して…」
「使っていたパソコンは、どんなパソコンでしたか」
「ノートパソコンです」
「メーカーはどこだったか覚えていますか?」
「…ちょっと、覚えていません」
「パソコンに入力していたということですが、使っていた会計ソフトは何でしたか?」
「…」
「このノートパソコンには、今うちで使っている会計ソフトのデモがインストールされているのですが、この仕訳を、ここで入力してみてもらえますか?」
「えっ…教えていただければ…」
「分かるところまででいいので、ご自身で操作してみてください」
どの程度の人材能力が必要なのかによって、評価が変わってくる
ここまでのやり取りで、おそらく同席した経理課長は、「これは即戦力にはならないな」と判断するのではないでしょうか。ですが、即戦力となる人材を採用することをお考えではないのであれば、もう少し様子を見てもいいのではないでしょうか。
同じ作業をもう一度させてみる
パソコンの操作や、ソフトの使い方を通り一遍説明をして、スムーズに入力作業を進めることができれば、何とかギリギリセーフでしょうか。ここで改めてもう一度同様の作業をさせてみる、あるいはその応用編に取り組ませてみるなどで、本人の能力をより具体的に確認することができるのではないでしょうか。ですが、説明をしてもなかなか自分で作業をしようとしない、とか、何とか一度は課題をクリアしたものの、もう一度トライをさせたときに、また同じことの繰り返しが必要だったとすれば、事務処理能力については、絶望的かもしれません。
履歴書の記載内容で実務能力は判断できない
ここまでの確認作業は、それほど大きな手間ではありません。それよりも「会計処理は得意」「簿記2級」という記載内容だけで採用判断することのリスクを考えれば、ここでこの程度の手間をかけることに大きな意味があります。履歴書の記載内容が、如何に当てにならないかがよくわかるのではないでしょうか。
具体的に何をしたのか、という事実を確認する
履歴書や、職務経歴書等の書面から実務能力の一端を垣間見る場合には、具体的に何をしたのか、具体的に何ができるのか、その裏付けとなる事実として、実際に前職で何をしたのか、具体的な内容が説明されているかどうかを確認します。本人が何を考え、どのような思いを持っているのか、という作文の下りは、それが如何に感動的な内容であったとしても、実務能力とは全く関係がありません。「あなたの思いはよくわかりました。ところで、あなたはどのような仕事をしてきたのでしょうか、具体的に教えてください」と問い直す必要があるかもしれません。
人間関係能力を確認するには、実際に職場でやり取りをさせてみる
ここまでは事務処理能力を見るための確認作業ですが、では人間関係面ではどうなのか、パソコンに向かって黙々と処理をするだけであれば、以上の確認作業だけで十分とも言えますが、では協調性についてはどうなのか、ちょっと欲張ってみるとすれば、例えばですが、この上記の確認作業を、実際の経理スタッフがいる職場の空いているデスクで、しかも今後同僚となるであろうスタッフから教えてもらいながら作業を進めてみれば、そのスタッフへの言動や態度、対応する姿勢などから、様々な側面が見えてくるのではないでしょうか。
判断に関わる人が多くなれば、意外な視点に気が付く
そして採否の判断にあたっては、経理課長だけではなく、その職場のスタッフにも意見を聞いてみることで、より総合的な判断が可能になるのではないでしょうか。
【参照コラム】「なぜ人材の採用に失敗するのか」
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