ついつい陥りがちな罠ですが、敵か味方かの判断で問題が解決するわけではありません。敵か味方かの判断で問題が解決したとすれば、それは問題の解決というよりは、問題の消去・削除であり、「敵」とされた相手を排除した、だけであることに気が付く必要があります。
もっとも、問題の解決を「敵」とみなされた相手を排除することしか考えられない従業員に対しては、問題の解決は、敵か味方かの判断で対応するものではないことを理解させることは極めて至難なことです。こうした場合の対応は別に考えますが、ここでは、無意識に「敵か味方か」という発想に陥ってしまう問題について考えてみます。
敵か味方か、という発想は、問題が何か、それをどう解決すべきか、という検討をする前に、そもそも自分の意向に賛同するのか、しないのか、を重要視するため、解決の方向性が硬直的になりがちです。言い方を変えれば、融通が利かない、一度この方向性と決めた場合に、後からの修正が利きにくいという特徴があります。
例えば、パワハラの問題の場合、パワハラを繰り返す上司憎しで人事などの相談をするときに、この相談者の話の内容は、パワハラの言動の具体的な事実関係よりも、いかにこの上司がどうしようもないかという上司批判になり、最後は、謝罪を求め、懲戒処分を求め、解雇や損害賠償まで持ち出すこともあります。
こうした状況に対して、具体的な事実関係を確認したり、また、その結果として、お互いよく話し合おうよ、などと別の方向を切り出したりすると、「結局上司の味方なんだな」という解釈をされることになります。問題解決のプロセスで「敵か、味方か」という発想が出てきた時点で、
「そんなに悪い人じゃないんだけどね」
などと言ってしまったりしますが、上司が良いのか悪いのか、が問題なのではありません。この流れに乗ってしまうと問題の解決は困難になります。相談者にとって上司は敵であり、何と言っても悪い人なのです。問題の指摘はパワハラの言動だけでなく、「坊主憎けりゃ、袈裟まで憎い」よろしく、いつもスマホばかり見ている、パソコンのキーを叩く音が大きい、いつもジロジロといやらしい目で見ている、職場にドカドカと入ってきて埃を巻き上げる、などとエスカレートしてきます。
問題の原点に立ち返る
そもそもの原因は、パワハラに該当すると相談者が考える言動にあるわけですから、その言動を止めてもらうことが問題の解決になるはずです。
ところがこの相談者は、おそらくは、問題に直面した当初は、これはパワハラだろうか、自分の思い過ごしなのか、などと逡巡しているうちに時間が経ち、何もできない自分にストレスを感じ、その原因となった上司の言動だけでなく、上司の存在自体に嫌悪感情を抱くことになり、ここで暴発した、という状況ではないでしょうか。
自分でも、何が問題なのか整理がつかなくなっているのかもしれません。まずは問題の交通整理をすること、そのためには、まず相談者をクールダウンさせなければなりません。だからと言って、
「ちょっと、冷静になろうよ」
と言ってみても、おいそれと冷静になるとは思えません。
これは一つの方法ですが、まずは相談者本人に、この問題をどう解決したいのか、具体的な解決の方向性を確認します。それが上司の解雇であったり、懲戒処分であったりする場合には、 「解雇なんて無理に決まってるだろ」などと判断を押し付けてしま うのではなく、そのためにはどのようなプロセスを踏む必要があるのか、どのような条件が求められるのか、理路整然と説明しながら、事実関係を紐解いていきます。その中で、これはとても解雇や懲戒処分は無理だな、と相談者本人に気付かせることができればベストでしょう。
「それじゃ、どうしようか」という具合に話し合いを前に進めることができれば、「敵か、味方か」という呪縛から解放され、具体的な問題解決に一歩前進するのではないでしょうか。
いずれにしても、こうした状況を生み出さないようにするために、日常的な取り組みの中で、問題の早期発見、早期対処が必要でしょう。
問題解決のための方法はまさにケースバイケースです。具体的な対応についてはこちらからご相談ください。