大半は、相談窓口ではない誰かに、それとなく相談する

これはハラスメントではないか、と感じた従業員がまず相談をするのは、「まずは相談窓口に」というインフォメーションを徹底している場合には、その相談窓口かもしれませんが、意外と多いのは、繰り返し周知を図っているとしても「相談窓口があるかどうかわからない」「相談窓口は知らない」という声は必ずあります。そうであれば、相談窓口について、1回周知した、お知らせを回覧した、という程度では、相談窓口を知らないという従業員は相当数に上るのではないでしょうか。

あるいは、いきなり相談窓口は敷居が高いと感じる従業員もいるはずで、いずれにしても、相談窓口ではないところに、ハラスメントの相談があるケースはかなりあるとお考えいただく必要があるかと思います。

他の部署の上司に対する相談も多い

ハラスメントの当事者として最も多いのは、直属の上司と部下です。その部下が、被害者として、これはハラスメントではないか、と相談をする場合に、その直属の上司の、その上の所属長とか、あるいはその部下が比較的話をしやすい関係にある他の部署の上司に、それとなく問題について相談をすることはよくあることです。その相談をした上司、上長が、とりあえず謝ってくれたけれど、結局上司のハラスメントは何も変わらない…散見されるケースです。

「申し訳ない。だけど、悪い奴じゃないんだよ」

こういわれたその相談をした部下は、「結局会社は上司の肩を持つ」と思い、相談しても解決しなかった、会社は解決してくれなかった、と考えるのです。これは会社にとって大きなリスクではないでしょうか。

ハラスメントの相談は、必ず相談プロセスにのせること

このことは、人事関係部署や相談窓口の担当者だけの理解では不十分で、ハラスメントの相談を受けることが想定される管理職に対しても、周知徹底が図られる必要があると思います。ハラスメントの加害者にならないための研修よりも、ハラスメントの問題はどのようなプロセスでどのように問題が検討され、会社としての対応が決定されるのか、という具体的な対応方法について、実際にそうした話があった時に、適宜適切に対応ができるようにしておくことがはるかに重要ではないかと感じますが、どうでしょうか。

とりあえず話を聞く

例えば、こうしたケースのように、直接の部下ではない従業員からハラスメントに関する相談があった場合には、時間があればとりあえず話を聞いてあげること、その上で、自分としては具体的な判断もできないし、対応もできないことを告げたうえで、もし会社として問題解決をして欲しいと思っているのであれば、相談窓口に話をつないであげるよ、といった返答をすることが考えられます。

それに対してその相談者である部下が、

「大事にしたくないので、職場内で何とかしてもらえたら…」

などと言ったとしたら、もちろんそれに答えることができればそれに越したことはありませんが、対応を誤った場合には、問題をこじらせる可能性もあります。相談を受けたその上司、上長のコミュニケーション能力、問題解決に対するセンスが問われるものになってしまうからです。そうしたリスクを避けるためには、やはり、しかるべき相談プロセスにのせる、が答えになります。

イレギュラーな相談への対応もルール化しておく

管理職の負担を考えなければなりませんので、それは受けることができない、という対応で統一するのか、あるいは、相談フォームを使ってその管理職が聞き取りまでするのか、これはケースバイケースでの判断かと思いますが、いずれにしても、繰り返しになりますが、相談プロセスのレールから外れないことが必須になるかと思います。

主観的な判断につながる発言は禁句

「そんなことがハラスメントになる訳がないだろ」「それがハラスメントになるなら、管理職は全員懲戒処分だな」などと言われた相談者である部下は、我慢をしろ、と言われたと解釈します。「悪い奴じゃないんだよ」も同様、これは発言者である上司の擁護そのものですから、パワハラ発言を擁護した、などと言われかねないものです。

私見を求められたときにはこう対応する

もし仮に、その相談者である部下から、個人的な感想でいいので、これはハラスメントに該当するのかどうか、と聞かれた場合には、何らかの価値判断を話すことは好ましくないとは思いますが、あまりに形式的な対応も、逆にけんもほろろな対応だった、冷たくあしらわれた、などと言われるのもどうかと…などと気になるとすれば、あくまでも私見であることを強調すること、判断をするのは会社だから、どう判断されるか分からないなどと、くどいくらいの弁解を付けたうえで、「○○かもしれないな」という程度までは、なんとか許容範囲でしょうか。

相談者が抱く不満は「相談したのに会社は何もしてくれない」

相談窓口に相談するわけでもなく、ましてや全く関係の無い他部署の管理職に、自分の不満を話しただけで、問題が解決すると思うこと自体に問題がある訳ですが、そう思った相談者は、この段階で社内的な問題解決をあきらめる可能性もあります。こうしたリスクを回避するという意味でも、相談プロセスにのせることが重要になってきます。

つまり、このままでは、会社としてはこの問題に対して、何ら解決に向けての対応をすることは無いこと、もし問題解決を考えているのであれば、しかるべき相談プロセスにのせる必要があることを、繰り返し、くどいほど説明をしなければならないかもしれません。

それでも、その相談者である部下が、そこまでするつもりはない、そのままでも構わない、という意思表示をしたとすれば、それ以上の対応はできない、ということにはなるかと思います。

ハラスメント防止法等に準じた相談対応のプロセス

  1. ハラスメント相談窓口について、就業規則等に規定をする、あるいはメールや書面等で、具体的に誰に対してどのような方法で相談をするかについて、あらかじめ周知をしておくこと
  2. ハラスメントの相談等があった場合には、相談者からの話を聞く機会を設け、合わせてその具体的な事実関係を明確に指摘させること
  3. 指摘された事実について、当事者からの聞き取り等により、会社としての事実関係の確認作業をすること
  4. 事実関係の確認作業から、確認された事実は何か、それは何を根拠に会社として事実と認めたのか明確にしておく
  5. 確認した事実が、ハラスメント防止規程等に基づいて、ハラスメントに該当するかどうかの検討と判断を行う
  6. 確認した事実について、ハラスメントであると判断した場合には、再発防止措置を含めた当事者双方への対応をすること
  7. ハラスメントが確認されない場合でも、何らかの再発防止対策を講じること
  8. 相談者に対して、解決行動を起こしたことを理由に労働条件等の不利益な取り扱いをしないこと

という流れになるでしょうか。相談があったら話を聞いてあげることは、当然と言えば当然ですが、最低限必要になるもので、ハラスメント相談対応の大前提でもあります。その前に、その相談の受け皿となる相談窓口を周知させておくことは、少なくとも形式的にではあっても、実施しておくことは必須です。もっともその相談対応を実質的に機能させるためには、相談があれば対応するという実態が必要になるという点については留意しておかなければならないと思います。相談窓口があるからいい、ということにならない、ということです。

また、8.については当然ではないか、という声も聞こえてきそうですが、これはむしろ加害者等による相談者に対する報復的な嫌がらせを想定しておく必要があるかと思います。

【参考コラム】上司からパワハラを受けている、と相談を受けたら

相談者は「パワハラである」と判断して欲しい

問題の事実をパワハラとして会社に認識して欲しい、という相談者の意向は、かなり根強いものがあります。パワハラと判断したからといって、問題の事実関係が改善しなければ何も意味が無いのですが、そうした本来の問題解決という本質的な課題よりも、直面する問題の事実がパワハラかどうか、これが気になって仕方がないのです。

会社がパワハラを認めれば問題が解決するという幻想

パワハラとして会社が認めれば、全てがきれいに解決するかのような錯覚に陥っているとしか考えられませんが、何も相談者の意向に答える義務もなければ必要もありません。もっと言えば、パワハラかどうかの判断は、全くの会社側の任意なのです。ですから、被害申告者である相談者に対して私はしばしば、パワハラだと問題提起をすれば、会社は必ずこれはパワハラではないと判断した、と回答して、その後の解決行動がとん挫するから、パワハラという言葉を使うべきではない、などとくどいほど申し上げるのですが、それでもパワハラかどうかが気になるようです。

全面否定する被申告者にどう対応するか

申告をされた側に対して事実関係の確認の聞き取りをした際に、けんもほろろに全面否定をされることがあります。事実を認めなければパワハラとして認められることもなければ当然処分などありえない、という確信犯的な全面否定に対しては何もできない一方で、これは事実かも知れない、などととつとつと回答するまじめな管理職はが処分されるという事態は、まさに正直者が馬鹿を見るを地で行くものであり、いくら申告されても全面否定をすれば問題ない、という開き直りの悪しき風潮が蔓延するのではないでしょうか。これではハラスメント申告制度など、全く機能しません。

事実関係の確認プロセスで矛盾や齟齬が必ず現れる

全面否定をする相手に対しては、とにかく事実関係を詳細に確認していくことが王道ではないでしょうか。この確信犯の聞き取り対象者は、全てを否定することを前提に回答しますから、必ず事実関係の細かい確認を行うことで、矛盾や齟齬が生じます。

申告内容自体の信ぴょう性に疑問がある場合は別として、そもそも全面否定などありえないのではないでしょうか。具体的な事実関係を告げる前から、それは言っていません、とか、やっていません、などと回答があれば、逆に、

今あなたが言っていないと言ったのは、いつのことを指しているんですか、今「言っていない」といいましたね。私は、いつ、どこで、について、これから詳細に指摘するところだったのですが、あなたが「言っていない」といったのは、あなたの認識では、いつ、どこで、のことでしょうか?

などと詰問すれば、いずれぼろが出てくるはずです。ケースバイケースでの工夫が必要になるかと思います。

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